赤字ローカル線問題、不良債権処理の二の舞?
JR九州は2022年3月23日、2020年7月豪雨により被災した肥薩線の復旧費が約235億かかるとの見通しを発表しました。球磨川に架かる2本の橋が流されており、これが費用を膨らませているようです。これを全額JR九州が負担するのは到底無理なことから、国交省は3月、河川や道路などの公共事業との連携の可能性も含めた復旧方法および復旧後の肥薩線の在り方などについて検討するため、「JR肥薩線検討会議」を立ち上げています。
もちろんこれにはJR九州も参加しますが、JR九州の経営判断は既に出ていると考えられます。復旧は不可能という判断です。国交省からは、橋梁や軌道面を公共工事とすれば、半額を国や県で負担できるようになるとの見通しが述べられているようですが、そもそも復旧しても肥薩線の採算見通しが立ちません。
肥薩線のうち人吉駅-八代駅間については、2019年度の1日平均利用者数が414人となっており、年間数億円の赤字と予想されます。このように鉄道を復旧しても赤字が膨らむだけであり、JR九州としては、235億円全額を国および熊本県が負担するとしても受けられません。従ってJR九州の結論は「鉄道としては復旧しない」で決まっています。後は関係者が諦めるのを時間をかけて待つのみです。これは日田-英彦山線の添田駅-夜明け駅間を鉄道復旧からBRT(バス専用線)復旧で決着したプロセスと同じになると思われます。添田駅-夜明け駅間の場合、2017年7月に災害で運行不能になり、2018年間から関係者で復旧方法の協議を開始し、2020年7月に決着していますから、これからすると肥薩線復旧問題も2年くらいかけて2024年3月頃、BRT復旧で決着すると予想されます。その場合球磨川に架かる橋は道路橋として国が建設し、鉄道部分のバス専用線化はJRの負担で行うということになると思われます。JR九州としては、肥薩線復旧による赤字累積を考えればこの負担は安いものです。
現在赤字ローカル線の整理問題が全国で発生しています。鉄道経営が成り立たなくなっているJR北海道の他これまでは都市部の黒字で地方ローカル線の赤字を補填していたJR西日本やJR東日本でも俎上に上っています。特に2021年度に2,332億円の赤字を出したJR西日本は、地方支社の統廃合を開始しており、次は赤字ローカル線の廃止に踏み込みそうです。一般に1日当たり平均乗車人数2,000人未満は即廃止になってもおかしくないと言われており、JR西日本ではこれに該当する線区が30あり、これの廃止が検討される模様です。これまでは鉄道廃止問題が出ると地元自治体の反対で先送りにされるケースがありましたが、現在はJR各社に経営的余裕がなくなっており、先送りはないと思われます。そのため、廃止ありきで話合を進め、地元が諦めるのを待つことになります。
この結論は見えているのに時間を掛けるやり方は、不良債権処理を先送りにし、失われた30年となってしまった日本の再現です。今後日本の人口は、現在の約1億2000万人が2045年には約1億人に減少すると予想されており、とりわけ地方の減少が大きくなります。従って、今採算が合わない鉄道線区は今後赤字額が増えて行くことが確実であり、廃止の結論に時間を掛けるべきではありません。地元としてもBRTのような代替交通手段を長期間確保した方が得です。
このように赤字ローカル線問題は、かっての不良債権処理の教訓から速やかに決着を図ることが賢明です。