目利き力の時代

4月10日、ロッテの佐々木朗希投手が完全試合を達成しました。日本プロ野球界では28年ぶり16人目とのことです。佐々木投手の完全試合は、内容が凄いことになっています。投球数105球でストライク82球、ストライク率78.1%です。27人の打者のうち19人が三振で、内13人連続三振、打ってのアウトは8人だけです。直球の最高速度は164kmで、フォークボールも140kmを超えていたということです。

佐々木投手の完全試合達成で、改めてスカウティングの重要さが浮き彫りになりました。と言っても、佐々木投手は高校時代に163km出してメジャーも注目していましたから、ロッテのスカウトが優れていたわけではありません。2019年のドラフト会議では、ロッテの他楽天、日本ハム、西武が1位指名しており、多くのスカウトが高く評価していたことになります。いずれも1位指名したのはパ・リーグの球団であり、パ・リーグの強さの秘密はスカウト力にあることが伺えます。巨人の原監督によると、巨人も1位指名候補に挙げていたようですが、最終的に星稜高校奥川投手(ヤクルトが獲得)にすることに原監督が決めたということです。原監督としては佐々木投手の素材としての魅力より、奥川投手の完成度を評価したものと思われます。

高校時代から好素材と言われていた点では、今メジャーリーグで活躍している大谷選手と重なります。大谷選手はメジャー挑戦を表明していたため、ドラフトで指名したのは日本ハム1球団でした。日本ハムはその年のNO.1選手を1位に指名すると公言しており、佐々木投手も1位に指名しています。そういう点では、評価力もあるし、なにより方針がぶれないところが素晴らしいと言えます。

佐々木投手の完全試合達成により、佐々木投手が登板する試合は満員になるでしょうから、ロッテに大きな経済的利益をもたらします。大谷選手がいたときの日本ハムもそうでした。このように1人のスター選手を生み出せば、球団に大きな利益をもたらします。球団経営面から見ればそれを再確認した佐々木投手の完全試合達成だったと思われます。

実はこれ以上にスカウトの重要性を認識させた試合がありました。それは4月12日のホークス対ロッテ戦です、この試合ではホークス20才の田上奏大(そうた)投手が先発し、5回2/3を無失点に抑えました。田上投手は、2020年ドラフトでホークスが5位に指名しましたが、その年の6月に外野手から投手に転向し(履正社高校)、練習試合で10イニング程度投げただけだったということです。練習試合での投球、特に球速が151mを記録したのをホークスのスカウトが見て、投手としての素材を評価し指名したというから驚きです。普通なら投手経験の少なさから担当スカウトが推薦しても社内会議で採用されないと思われます。ホークスは2017年のドラフトでも1位に全国的に無名だった鶴岡東高校住吉晴斗投手を指名しており、このときの指名理由も高い身体能力でした(住吉投手は2021年引退)。ホークスの場合、現在活躍している柳田選手や千賀選手も身体能力重視で獲得したものであり、素材重視の方針が定着しているようです。

スカウトが一番下手だと思われていた巨人にも変化が見られます。それは昨年のドラフトで下馬評が低かった翁田大勢(おうだたいせい。以下大勢)投手を1位に指名し、今年抑えとして大成功しているからです。私も昨年この指名を見たときは、「あ、巨人また今回もダメだな」と思いました。それくらい巨人のドラフト上位指名選手は活躍していなかったのです。ところが今年は、大勢投手の他赤星投手(昨年ドラフト2位)も活躍しています。巨人もスカウト方針をこれまでの実績主義から素材主義に転換したように感じられます。こうなるとスカウトの目利き力が重要となります。それとともに最終決裁権限者にも高い目利き力が必要となります。

画期的な製品やサービスが生まれないと生き残れない民間企業においても、これらを生み出せる突出した才能を持つ人材の発掘が必要となっており、採用担当者に目利き力が必要となっています。