憲法は法規ではなくガイドライン

ロシアのウクライナ侵攻に伴い、次は自分の国と身構える国が増えています。ロシアと1300kmも国境を接しているフィンランドは、これまでの非同盟中立の立場を捨てNATOに加盟する方向です。バルト海を隔ててロシアと繋がるスウェーデンも同様な立場です。旧ソ連邦ではないこの2カ国でさえこの危機感ですから、かってソ連邦に属したバルト3国(エストニア、ラトビア、リトアニア)やワルシャワ条約機構に属し、ウクライナと立場が近いポーランドやチェコ、スロベニアなどは、ウクライナの状況に我が身を重ねている状態と思われます。

こんな中、北海道の目と鼻の先でロシアと国境を接している日本は、ロシアが北海道に侵攻したら自衛隊では食い止められないと言われており、ウクライナに近い状況です。その理由として憲法9条で自衛権が制限され自衛隊が十分な戦力を有していないからと言われています。しかしこれは為政者の方便です。確かに憲法9条は

1日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。 国の交戦権は、これを認めない。

と規定しており、素直に読めば一切の自衛権を放棄していることになります。しかし主権国家が外国の侵略に対して主権を守るための自衛権を放棄することは有得ず、憲法9条は、憲法の本質と相容れない本源的無効規定ということになります。なぜこんな状態になったかと言うと、憲法制定時(1946年)の日本はポツダム宣言受諾により国連軍に占領されて(主権の喪失)、武装を完全に解除されていました。即ち、憲法9条のような状態にあったのです。従って憲法9条は当時の日本の状態を表したものと言うことができます。しかし1951年のサンフランシスコ講和条約締結により日本は主権を回復し、1954年には完全武装組織の自衛隊を創設していますので、憲法9条は事実上廃止または改正されたと考えられます。ただし廃止または改正手続きが行われていない状態です。自衛隊の存在が国民の多くから支持されていることがこれを裏付けています。このため憲法9条の字句を根拠に自衛隊は違憲と言う主張はほぼなくなったように思われます。

ここで注意すべきは、憲法9条の形式的な効力をこれまで都合よく利用してきたのは、歴代の日本政府だということです。自衛隊の創設により憲法9条を事実上無効にしながら、憲法9条の存在を理由に防衛費をGDPの1%以下に抑える政策を取ってきました。その結果ロシアが北海道に侵攻したら自衛隊では食い止めらないと言うウクライナ以下の防衛力という有様です。

なぜこういうことになったかというと、憲法に対する国民の理解が間違っているからです。日本人は義務教育の中で、憲法は国の「最高法規」と教えられており、これを鵜呑みにしています。考えてみて下さい。憲法違反をしてもなんの罰則もありません。憲法の下に位置する法律に違反すれば様々な罰則があるのに、です。刑法では死刑もあります。もし憲法が「国の最高法規」ならその違反には法律違反以上の罰則が科されるはずです。死刑以上の罰則があっても良いことになります。これがないということは、憲法は法律以下の存在だということです。一方法律の大枠としての役割はあることを考えると、憲法は国の「ガイドライン」または「努力目標」というのが正しい理解だと思われます。こう考えると国民の憲法に対するもやもやが解消すると思います。