ルノーは日産株を東風汽車集団に売却する?
4月24日ロイターは、ルノーが日産株の一部売却を検討していると報道しました。
売却理由は、電気自動車(EV)化を進めるための資金を確保するためとしています。EVと言えば日産は2010年にリーフを発売し、世界の自動車業界の先頭を走っており、ルノーも日産の電気自動車技術に魅力を感じていると思われていましたが、どうなっているのでしょうか。今では電気自動車と言えば米国テスラですし、世界の自動車メーカーがEV車を発売し、日産の電気自動車の販売台数を超えているメーカーも多くなっています。2021年度を見るとルノーも13万6,750台販売し、日産の1万843台を大きく上回っています。こうなるとEV技術においてはルノーが日産を上回っていると思われ、ルノーにとって日産の魅力はなくなります。これが今回の日産株売却報道の背景にあるようです。
ルノーが売却する日産株の割合については、「数十億ユーロ(数千億円)に上る可能性がある」との報道もあります。現在ルノーの日産に対する持ち株比率は43.4%で、4月25日時点では9,331億円相当となります。先ず考えられる売却株数は、合併などの特別決議を単独で阻止することが可能な33.4%まで残して、約10%売却することです。この場合売却額は約2,000億円となります。
一方カルロス・ゴーン元会長の逮捕以来のゴタゴタで販売台数が激減(約600万台→約400万台)した日産にルノーはあまり魅力を感じなくなっており、もっと大幅に売却してくると言う予想もできます。その場合、残り20%程度まで約23%売却することも考えられます。この場合売却額は約5,000億円となります。日産の業績が悪化し、ルノーが日産を合併するインセンティブがなくなったこと、社長指名委員会などの設置でルノーから社長や会長を出し、日産の経営をルノーが人的に支配することも難しくなったことから、この予想も十分ありえます。私は、買い手さえあれば、この予想が実現すると考えます。
さて買い手ですが、日産には2兆円程度の手元資金があることから、日産自身が購入するとの予想があります。日産はルノーが日産合併に動いて以来ルノーの持ち株割合を減らしたいと考えて来ましたら、十分考えられる説です。しかしこの2兆円程度の手元資金は、利益が積み上がったものでなく、業績悪化に備えて銀行借入や社債の発行などで確保したものです。この支払利息が損益の負担となっており、日産としては今後これを減らすことが経営上の大きな課題となっています。日産がルノーから自社株を購入することは、借入金や社債が減らないことを意味し、日産の経営上大きな障害となります。従って、日産存続を考えれば採れない方策です。
こういう報道が出るということは、ルノーは既に買い手を見つけていると考えられます。それは中国で日産と合弁会社(東風汽車。各50%)を作っている東風汽車集団が考えられます。東風汽車集団は、中国3大国有自動車企業の1つで、中国で日産の他本田、起亜、ルノー、ボルボなどとも合弁会社を作っています。この内一番上手く行っているのが日産との合弁会社です。日産は中国で2021年度138万台販売しており、全販売台数406万台の約34%を占めます。日産の運命は中国市場の動向が握っていると言ってもよいくらいです。東風汽車集団としても日産本体を傘下に置けば、一挙に中国トップの自動車メーカーになれるばかりか、世界的自動車メーカーになれます。従って、ルノーが日産の全株を売却すると言えば、購入する可能性が高いと考えられます。
というわけで私は、ルノーは日産株の約23%を東風汽車集団に売却すると予想します。そして東風汽車集団はその後市場が8%以上の株式を買い集め、31%以上のシェアとして、ルノーと合わせ51%以上のシェアを握り、日産を両社の共同経営とする方向となります。中国市場が生命線である日産にとっては、ルノー傘下より良いかも知れません。