「日銀は政府の子会社」というより「財務省国債買入局」
5月9日安倍元首相が大分県での講演で、「日銀は政府の子会社」と述べたことが問題になっています。安倍元首相は 次のように述べたということです。
「1,000兆円ある(日本の)借金の半分は日本銀行が買って回っている。日本銀行というのは政府の子会社ですから、60年の満期が来て基本的には返さなくてはいけないのですがずっと60年が来たらもう一回借り換えてます。返さないで借り換えていく。何回だって借り換えたってかまわないわけであります」
この発言が問題となっているのは、「日銀が政府の子会社」なら、政府が発行した国債を政府の子会社、即ち政府自身が購入しているという経済原則上おかしなことになるからです。また現在日銀が国債を購入しているのは、金融調節のためと説明されていますが、実は償還を逃れるためではないか、という疑いが出てきます。安倍元首相の発言はそういう目的があることを明確に述べています。これでも財政が回っているうちは良いのですが、いずれ様々な問題が出てくることは確実です。そのため日銀や政府は否定に躍起です。
日銀の黒田総裁は「日本銀行は、もちろん政府から過半の出資を受けておりますけれども、出資者には議決権が付与されておりません。日本銀行の金融政策及び業務の運営については、御指摘の通り、98年に施行された新日銀法によって自主性が認められております。従いまして、日本銀行が、政府が経営を支配する法人とか子会社というものではないというふうに考えております」 「日本銀行法で、3条で非常に明確に『日本銀行の通貨及び金融の調節における自主性は、尊重されなければならない』。5条で『日本銀行の業務運営における自主性は、十分配慮されなければならない』というふうにされております。何か日本銀行が政府の子会社のようになっているということは全くないというふうに考えております」と反論していますし、鈴木財務大臣は、「政府は日銀に対して55%出資しているが、議決権は持っていない。会社法では子会社について議決権の過半数を持ち経営を支配している法人と定めており、日銀は該当しない。それに日銀は日銀法で自主な運営が尊重されており、政府の支配は及ばない。」と反論しています。
学者やエコノミストも、日銀は会社法上の法人ではなく、根拠法である日銀法には子会社という概念がないことや日銀法で運営に自主性が尊重されていることを根拠に、安倍元首相の「日銀は政府の子会社」論を否定しています。
しかしこれらの反論は全て的外れです。安倍元首相が「日銀は政府の子会社」と言い始めたのは、首相退陣後からです。首相在任中は言っていません。これは何を意味しているかと言うと、国債残高が1,000兆円まで膨らんだ最大の原因は安倍首相のアベノミクスによる金融緩和政策であることから、その責任を回避するためです。安倍首相の「日銀は政府の子会社」の主旨は、「アベノミクスもあって国債残高が1,000兆円になりましたが、ちゃんと手は打っています。日銀が半分以上保有しており、「日銀は政府の子会社」みたいなものだから、返済を求められることはありません。従って、この部分はないのも同じなのです。」ということです。即ち、安倍元首相の「日銀は政府の子会社」論は、アベノミクスが間違っていなかったことと、自分はここまで考えて手を打っていたことをアピールするためになされたものです。
「日銀は政府の子会社」という表現は、日銀が実質的に政府の政策に従い国債を買入れており、日銀は政府と一体だからその国債は返済する必要がないことを言ったものですが、もっと分かり易く言えば、「日銀は財務省国債買入局」と言えると思います。今期の予算107兆円の原資は、税収65兆円、国債37兆円であることを考えると、国の予算制度において国債が必要不可欠となっており、国債残高が1,000兆円に達したことを考えると、市場で安定的に消化するためには、ある割合の国債を市場から買い入れて塩漬けにする機関が必要となります。それは予算制度を回すための機能であることを考えると、財務省国債買入局が適切ということになります。しかしこれではあまりにもみっともないので、この機能を日銀に委託していると考えることができます。日銀が国債金利収入の殆どを財務省に納入しているのはこのためと言えます。
安倍元首相の誤った自己アピールから日銀と財務省の一体化と国債の償還不能部分の存在が明るみにでることとなりました。次に問題になるのは、「この償還不能の国債(塩漬け国債)をどのように処理するのか」ということです。