岸田政権は「製造業の強化」の一択でよい
岸田文雄首相は5日、英国の金融街シティーで講演し政権が掲げる経済政策「新しい資本主義」を実現する中で、「資産所得倍増を実現する」と表明したということです。
岸田首相が言う資産所得とは、労働の対価である給料とは異なり、株式の配当などから得られる所得とのことです。岸田首相は家計の預貯金を投資に誘導し、株式売却益や配当から得られる利益などで所得を増やす考えとのことです。
この政策の背景にあるのは、日本の個人金融資産が約2,000兆円ある、日本の家計に占める資産所得の割合が米欧などに比べて小さい、という事実のようです。このマクロの視点は正しいと思いますが、具体策として少額投資非課税制度(NISA)の拡充や、預貯金を資産運用に回す新たな仕組みを作ることしか述べなかったようなので、実効性のある具体策は持ち合わせていなと思われます。
日本人の金融資産の平均保有額は、単身世帯1,062万円、2人以上世帯1,563万円です(2021年金融広報中央委員会資料)。金融資産は大きい世帯の数字で平均値が大きくなるので、日本人の実体を見るには中央値が適切です。それによると単身世帯100万円、2人以上世帯450万円となっており、大部分の国民は株式などのリスク資産で運用できる経済状況ではありません。その結果資産所得倍増政策は、現在金融資産を多く持っている富裕層が恩恵を受ける政策となり、国民の多くは恩恵を受けられないこととなります。給与所得の増加については、賃上げ税制や兼業・副業やリスキリング(学び直し)の推進、雇用の流動化などの政策が考えられているようですが、政策の肝は、雇用のすそ野が広い製造業の強化と考えられます。この部分については、半導体産業については助成金の増大などで強化の道筋が見えていますが、その他の産業については見えません。ここが成功しないと富裕層とそれ以外の層の収入格差が拡大し、社会的混乱、ひいては治安の悪化を招く恐れがあります。
資産所得倍増政策は、何も政府が旗を振らなくても富裕層は勝手に動くので、実現する可能性は高いと思われます。一方国民の多くにとって必要な給与所得の増加については、政府が製造業強化を徹底的に推進しない限り実現しません。このことから、岸田政権が力を入れるべき政策は、資産所得倍増政策ではなく「製造業の強化」政策の一択と言えます。