資産所得倍増計画の裏に大インフレ政策あり
これまで目玉政策がなかった岸田首相が資産所得倍増計画を掲げ出しました。これは5月18日イギリスロンドンの金融街シティでの講演で突然言い出したものです。岸田首相は昨年9月の自民党総裁選に出馬した際、所得倍増計画を打ち出しましたが、首相就任後山際経済政策担当大臣が「令和版所得倍増計画は、文字通り『所得倍増』をさしているのではなく、多くの方が所得を上げられるような環境をつくって、そういう社会にしていきたいということを示す言葉だと総理はおっしゃっているじゃないですか」と述べ、実質的に計画そのものを否定しました。これに対して岸田首相は何も言いませんでしたから、同意したものと思われます。首相になるための目玉政策を首相になったら引っ込めるのですから、公約詐欺とも言えるやり方です。
岸田首相もこのことを気にしていたと思われ、所得倍増計画の替わりに出してきたのが資産所得倍増計画だと思われます。資産所得倍増計画とは、株式の配当やキャピタルゲインなどの投資資産からの所得を倍増するというものです。これは1995年からの20年間でアメリカの家計金融資産は3.14倍になったのに対し、日本の家計金融資産は1.51倍の増加に留まっており、その原因は株式などの投資商品の保有率が米国46.2%に対し、日本18.6%(共に2016年のデータ)にあるとの認識に基づいています。これは単に保有割合の差ばかりではなく、米国の株価(ニューヨークダウ)が1991年の株価との比較で2021年は12倍になったのに対し、日本の株価(日経平均)は1.3倍にしかなっていないということが大きな原因であり、つまるところ経済の強さの差とも言えます。
日本でも金融緩和や国債の大量発行により市場の資金量が増大しており、今後株価の上昇は不可避なことから、これは何もしなくても実現すると思われます。例えば今の配当所得が5万円としてこれが10万円になれば達成ですから、5%配当の株を100万円買い増せば達成です。如何に安易な計画か分かると思います。だからそれを実現する具体的政策がNISAやiDecoの拡充となっているのです。一方日本の場合1990年くらいから30年近く家計の所得が上がらない中で、消費税や社会保険料などの公的負担が上昇し、投資に回せる余裕資金が不足しています。従って資産所得倍増のためには、先ず投資に回せるだけの所得の増加が先と言うことになります。
資産所得倍増計画は所得倍増計画という大風呂敷が巾着に替わったようなものですが、実現性は高いと思われます。それは先ほども述べたように金融緩和や国債の大量発行で市場の資金量が膨れ上がっているからです。これは現在企業の内部留保や個人の貯蓄になっていますが、いずれ株式市場に向かい株式が値上がりする可能性が高いと思われます。実際株式市場には絶対潰れない社会インフラ企業の配当利回りが5%を超えているものもあり、配当収入だけでも投資する価値がある株式が多数見られます。
現在食品を中心に値上げが相次いでいますが、これは今後とも引き続きバブル崩壊後の物価低迷を埋める動きになると思われます。先ずドル円相場が1ドル150円くらいまで下落しますし、それに伴い輸入商品が5割程度値上がりします。国内で生産している商品も原料を輸入しているものが多いため同じくらい値上がりします。今回は競合先が揃って値上げするため、値下げ圧力はかからないことになります。日本の物価水準が一挙に上がることになりそうです。
これに伴い輸出企業を中心に企業収益が上がり、所得も上がります。これで物価の上昇を吸収することになります。これこそがアベノミクスが狙ったものです。アベノミクスの狙いは物価を引上げ、GDPを上昇させ、財政赤字を解消することでした(物価が2倍になれば、例えば1,000兆円の国債は半分の500兆円相当の評価になる)。日本の財政赤字はインフレで解消するしかなく、岸田政権でもインフレ政策を採ることになります。これが資産所得倍増計画の背景にあります。