美術品の無防備な展示が破損を誘惑している
6月6日新潟市教育委員会は、新潟市内の中学生が修学旅行で訪れた十日町市の美術館の作品を破損したと発表しました。4月21日午前、新潟市内の中学校の修学旅行生が見学に訪れた十日町市の越後妻有里山現代美術館内に展示されていていた「LOST#6」と「WellenwanneLFO」の2作品を損壊し、このうち「LOST#6」は修復が困難な状態だということです。 美術館側は警察に被害届を提出し、警察が捜査を開始したという話ですから、破壊の仕方がかなり悪質だったものと思われます。
器物損壊罪は故意犯に限られるので、わざとでなければどれだけ不注意の程度が大きくても刑事処罰はできないし、破壊した生徒が14歳未満であれば、たとえわざとであっても刑事処罰はできないようです。一方民事では過失であっても破壊した生徒に損害賠償責任が発生し、学校側の監督責任も問われる可能性があるようです。中学校では入学時に総合補償保険に加入しており、この保険でカバーされるのでは、とも言われています。
私がこの報道に接したとき、「やはり起きたか」と思いました。これは起きるべきして起きたことだと思います。それは日本の美術館の展示が余りに性善説に立ち無防備だからです。私は若い頃海外旅行で大都市の有名美術館をいくつか訪問しましたが、どこも警備が厳重でびっくりしました。先ず入館の際荷物をチェックされ、金属物など展示物の破壊に使われそうな道具や化学薬品が入っている可能性があるペットボトルは没収(預かりだったかも知れません)されました。最初は「エッ!」と驚きましたが、良く考えると美術品の破壊を防ぐ最善の措置であることが分かります。これらの美術館は性善説ではなく、必ず不届き者はいるという前提でリスク管理を行っていることが分かります。
これに対して国内の美術館はこういうチェックを殆どしていません。私がそれを痛感したのは相当前のことですが東京六本木にある国立新美術館で大規模な西洋画の展覧会が開かれたときのことでした。これはマスコミで頻繁に取り上げられていましたので連日盛況でした。私が行った日も見学者で溢れていましたが、無警戒な展示にびっくりしました。部屋の壁に絵画を展示し、その前1mもないところに可動式の低いポールにロープを張っていただけでした。ロープも垂れているので、体を乗り出せば手で触ることもできました。それに入館時の荷物チェックは全くないため、破壊する道具や化学薬品を入れたペットボトルの持ち込みも容易できました。私は見学しながら展示品を破壊する人が出てくるのではないかと内心ドキドキしました。胸騒ぎがしたため帰宅後文化庁にもっと展示物の安全に配慮した方がよいと言う内容のメールを送りました。その後美術館には行っていないので改善されたか分かりませんが、今回の新潟の事件を見ると多分変わっていないように思われます。
美術品は一回壊された修復不能なことが多いため、壊されないように展示することが重要になります。それは美術関係者なら一番わかっていると思うのですが、対策にまで頭が回っていないようです。今回の事件を契機に、外部のリスクマネジメントの専門家を入れて展示方法を再検討する必要があると思います。今回の事件は、甘い美術品展示体制が招いたと言えると思います。