「値上げを受けいれていない」のなら自民党に投票しないこと

6月7日、日銀の黒田総裁が講演会で述べた「家計の値上げへの許容度が高まっている。家計が値上げを受け入れている間に、良好なマクロ経済環境を維持し、賃金の本格上昇につなげていけるかが、当面のポイントだ」という発言が世間の批判を浴び、黒田総裁が撤回する事態となりました。この発言の背景には、コロナで外出が制限された結果消費に回されなかったお金が家計に溜まっているという推計があります。これを日銀では「強制貯蓄」と呼んでおり、20兆円程度と試算しています。これに特別定額給付金12.6兆円を加えた32.6兆円程度が潜在的な消費原資としてマグマのように家計に溜っていると考えているのです。日本の世帯数は約5,170万世帯(2019年)なので、強制貯蓄だけで一世帯当たり約38.7万円、特別定額給付金を合わせると約63.1万円になります。このため黒田総裁は、家計は最近の物価上昇に対して「許容度が高まっており」「値上げを受け入れている」と判断していたのです。

しかしこの日銀のこの見方には誤りがあります。確かに大企業や公務員、年金受給者など約半数の家計はコロナ禍でも収入は減らず、行動が制限された結果本来なら消費に回すはずのお金が貯めこまれています。しかし一方残り半数の家計はコロナ禍で収入減少となり、借金をするか、本来の消費を切り詰めて乗り切っています。これらの家計は物価上昇に対する「許容度は高まっており」とは言えず、「値上げを受け入れている」はずがありません。全体では強制貯蓄と借金や消費切り詰めが釣り合うくらいではないか、と思われます。こう考えると物価上昇が強制貯蓄がない家計に大変な試練となることが分かります。コロナ禍が終わったらと思ったら今度は物価上昇禍に襲われ、試練が続くという状態です。このように日本の家計はコロナ禍によって完全に2極分化しています。黒田総裁の見方はこの内コロナ禍の影響を受けなかった約半数の家計を見たものであり、残り半数を無視したものです。そうなったのは黒田総裁が9年間目標としてきた物価2%上昇が実現に近づいたことがあります。これはロシアのウクライナ侵攻による原油や天然ガス、食料価格の上昇や円安の進行によるものであり、想定外の物価上昇です。黒田総裁が目標とした2%物価上昇は2%以上の賃金引き上げを伴った物価上昇でした。賃金が上がっていないことから、この物価上昇を受け止められるお金があることを言う必要があったのです。このお金が強制貯蓄ということになります。確かにコロナ禍の影響を受けなかった家計には日銀が強制貯蓄と呼ぶものがありますが、これは今年切りのものであり、来年からは賃上げ分で物価上昇を吸収する必要があります。黒田総裁の発言の主旨はこう言うことであり、全体としては当たり前のことを言っており、間違いではありません。しかしその強制貯蓄がある家計とない家計が同じくらいあることの認識を欠き、我田引水的な引用になってしまいました。

黒田総裁の発言撤回によりこの問題は終わったようになっていますが、国債残高1,000兆円、防衛予算の増額などを考えると日本の財政は危機的状況にあり、この問題の解決にはインフレしかなく、参議院選挙後政府および日銀は、大インフレ政策を推進します。1つは円安であり1ドル150円を超えて来ると予想されます。また値上げを容認し、同じ業界の全企業が値上げし、値下げ圧力が掛からなくなります。以前ドコモ、au、ソフトバンクが携帯電話でとった協調政策が全業界で実施される状態となります。一方では大企業を中心に賃上げが行われます。日本の場合経営陣も従業員と同じ感覚なので、物価の上昇分は賃上げしないととなる会社が多いのです。また物価の上昇に伴い株式や不動産などの資産価格が上昇しますので、余裕資金の多くをこれらに投資している富裕層は益々潤うことになります。

その一方コロナ禍で生活再建が必要な家計にとっては更なる試練となりそうです。今後日本の家計はこれまでにないくらい貧富の差が拡大すると考えられます。その結果治安が悪化する地域も出て来ると思われます。

この想定が正しいとしたら、6月22日公示の参議院選挙はこの政策の信認投票となります。これでは困る家計は自民党に投票しないことです。