日銀金利引上げは日銀発金融危機の号砲
物価の上昇が止まりません。スーパーに行けば多くの食品価格が上昇していますし、価格は上がらなくても量が減っています。それに参議院選挙を意識してか値上げを発表しても実施は8月以降としているものが目立ちます。そのためか米国の5月消費者物価指数が8.6%上昇しているのに対し、日本は2.1%と4分の1の上昇に留まっています。
これに基づき米国FRBは6月の政策決定会合で政策金利を0.75%引き上げ、1.5~1.75%を誘導目標に設定しました。今年中に3.4%まで持っていく予定と言いますから、あと1.75%の利上げが予定されていることになります。一方日銀は現状(誘導目標0.25%)のまま据え置きました。2.1%の物価上昇は高いとは言えないし、一時的なものとしています。加えて5月末に日銀の黒田総裁が発言した「日本の家計も値上げ許容度が高まっている」という認識が背景にあるようです。
この物価上昇が一時的かどうかは参議院選挙が終わればはっきりします。参議院選挙後には自民党に忖度して値上げを言い出さなかった企業が一斉に値上げに動きますし、日米の金利差からドル円レートが更なる円安に動きます。現在1ドル136円になっていますから、米国の金利が今後1.75%上がれば1ドル150円を超えて来るのは確実ですし、180円までいってもおかしくないと思います。そうなると牛肉や豚肉、小麦などの準主食の食品が5割以上値上がりしますので、庶民の物価上昇感は半端ない状態となります。これに電気・ガスの値上がりが加わりますから、物価上昇地獄の中で生活している状況となります。
こうなると日銀も物価の上昇は一時的とは言っていられなくなります。消費者物価の上昇率が3%を超える数字が出て来るのは8月の結果が出る9月と思われ、9月の政策決定会合では金利引上げを巡り激論になると思われます。
それでも政策金利は引き上げられない可能性が高いと思われます。それは黒田総裁が言っているように、政策金利引上げが景気に悪影響を与えることもありますが、それ以上に日銀発の金融危機を引き起こすからです。
その理由を説明します。先ず日銀は約540兆円(2022年6月20日時点)の国債を保有しており、政策金利を引き上げるとこの国債は価格を下げないと(国債の表面利回りが低いため、価格を下げて市場金利に合わせる)買い手がいないため、含み損を抱えることになります。例えば金利が1%上がれば日銀は5.4兆円の含み損(540兆円×0.01)を抱えることとなります。日銀にこれ以上の自己資本があれば吸収できますが、日銀には約3兆4,440億円の自己資本(資本金1億円、準備金3兆4,440億円)しかありません。そのため約2兆円の債務超過状態(-5.4兆円+3.4兆円)となります。ただし引当金勘定として約7兆7,000億円ありますので、これが国債の値下がりに備えたものなら、2%の金利上昇まで耐えられます(-10.8兆円+3.4兆円+7.7兆円)。いずれにしても1%の金利上昇で日銀の債務超過に注目が集まることになります。こういうことにならないように日銀では黒田総裁になるまで、日銀の国債購入額を日銀券発行額(2022年6月20日時点では約120兆円)以内に制限していました(日銀券を原資にして国債を買っていた)。これなら国債の含み損は日銀券を一部(例えば5.4兆円)放棄処理する(日銀券は負債勘定に載っているので債務免除益5.4兆円が発生し、含み損と相殺できる。日銀券は債権者がいない擬制負債なので日銀の判断で放棄処理できる。)ことによって処分することが出来るからです。これを安倍首相と組んだ黒田総裁がアベノミクスを実施するために撤廃したのです。その結果日銀券約120兆円は国債の購入ではなく貸付金約142兆円に使われていることになります(22兆円は日銀当座預金が充てられているとも考えられる)。
それでも日銀の場合、一般企業と違って資金繰りに行き詰まることはありませんから、倒産するということはありません。しかし中央銀行の債務超過は金融システム全体に大きな悪影響を及ぼします。
その最たるものは、日銀の最大の負債である日銀当座預金(564兆円)に返済(返還)できない可能性が生じることです。日銀当座預金は「準備預金制度に関する法律」に基づき銀行に集まった預金の一定割合(現在は0.84%)を日銀に預ける預金準備金や政府関係の決済資金などで、これまで銀行にとっては一番安全性が高い資金でした。それに金利も付くことから、銀行は運用先の無い預金をこれ幸いとばかり日銀当座預金に預け入れていました。これに対して金融緩和を進めたい日銀は、資金運用的な当座預金からは逆に金利を採る(マイナス金利)こととしたため、日銀の当座預金はこれでも抑制されていると思われます。
問題は日銀がこの当座預金で国債を購入していることです。当座預金564兆円に対して国債残高が540兆円となっていることから、この意味が分かると思います。日銀保有国債の含み損により日銀が実質的に債務超過に陥れば、銀行にとって与信管理上日銀そのものが要管理取引先となりますし、日銀当座預金の返済に不安が生じます。そもそも国債の発行残高が1,000兆円を超えており、2022年度の国家予算107兆円のうち税収は65兆円で、赤字国債を36兆円も発行していることから、1,000兆円の国債の一部は償還不能となっていると考えられます。そしてその部分は日銀保有国債540兆円に含まれていると考えるのが妥当です。この540兆円の購入には日銀当座預金の殆ど(95.7%)が充てられていることから、将来564兆円の日銀当座預金の一部は返済不能となると考えられます。従って銀行は日銀当座預金の返済不能に備えて引当金を計上する必要があることになり、銀行の損益が悪化します。
「銀行の銀行」がこういう事態であると言うことは、ほぼ日本の金融システムは破綻していると言えます。それが明らかになるのが日銀の政策金利引き上げです。これが分かると黒田総裁が政策金利を引き上げられない理由が分かると思います。こういう状態を招いた根本原因は安倍元首相のアベノミクスにあり、安倍元首相も「日銀は政府の子会社」などとはしゃいでる場合ではありません。