岸田首相に足りないのは「自調自考」

岸田政権の支持率は最近落ちてきたという報道もありますが、全体的にはまだまだ高いレベルを維持しています。ロシアのウクライナ侵攻に伴うロシア制裁に欧米と歩調を合わせて厳しく対応している点が評価されていると思われます。その他の政策では音沙汰なしであり、マスコミやSNSでは「何もしない」岸田政権の高支持率をいぶかる論調も多数見られます。

確かにロシアのウクライナ侵攻に当たっては、安倍政権がロシアのクリミア併合に対して、北方領土返還交渉中であることを理由に欧米の経済制裁に加わらなかったのと比べると厳しい対応をとっており、評価できます。これに関しては安倍首相でなくてよかったと思えます。またこれにより日本の防衛力を抜本的に見直すと明言しており、国民も頼もしく思っていると考えられます。

一方日本のもう1つの課題である経済力の強化については全く期待外れの状況です。岸田首相誕生の要因ともなった「令和の所得倍増計画」は政権誕生早々経済政策担当の山際大臣が否定し、消えてしまいました。その後今年の5月に訪問先のロンドンシティで突然言い出したのが「資産所得倍増計画」でした。これは「令和の所得倍増計画」に代わるものだと思われますが、全く国民に及ぼす効果が違います。所得倍増計画だと例えば500万円の所得の人なら1,000万円になりますが、資産所得倍増計画なら配当所得5万円が10万円になれば達成です。5%配当の株式を100万円買い増せば達成したことになります。金額的に100対1くらい違いますし、株式投資が出来るのはある程度の貯金がある人ですから、国民の半分もいないと思われます。それに富裕層ほど恩恵を受けるので、所得格差が広がる政策でもあります。従って政権の中心に据えられる政策ではありません。

さらにロシアのウクライナ侵攻により石油や天然ガス、食料の価格が高騰し、これに円安が加わり、物価の高騰が止まりません。日銀の2%物価上昇という目標は訳なく達成できますが、問題はそこを超えてどこまで上がるかになってきたことです。これによりこれまで利益を内部留保にしてきた企業は物価上昇分を補うため賃金を上げて来ると思われます。たぶん来年はこれまでない賃金引上げ現象が起きます。しかし一方ではコロナで打撃を受けた観光・宿泊・飲食などの事業者は十分な回復には至らず、物価高の影響をもろに被ることになります。その結果生活の危機に直面する人たちも相当出てきます。最近黒田総裁が「家計も値上げを許容している」と発言し、多くの国民の反発を招きましたが、これはこれらの人たちの生活状況に対する黒田総裁の認識不足から来たものです。

岸田首相が自民党総裁選時に「令和の所得倍増計画」と並べて目玉政策とした「新しい資本主義」は、岸田首相からその内容が語られることはなく、「新しい資本主義実現会議」に丸投げしました。そのメンバーを見ると経団連会長や経済同友会代表幹事、日本商工会議所会頭、連合会長などがメンバーであり、具体的内容は期待できませんでした。案の定5月 31日に発表された内容は抽象的な内容ばかりであり、実効性は全く期待できません。このように岸田首相には、自分が首相になったらこれをやると言うようなものが何もありません。具体的政策は官僚に丸投げの状態です。そのため政策が採用されるようになった官僚の評判は良いようです。しかし安倍政権約7年8カ月の中で安倍首相が自分に忠誠を尽くす特定の官僚を重用し、その他の官僚は顧みなかったため、官僚の政策立案能力は大きく低下しています。それが今の岸田政権の「何もしない」政権と言う評価に表れています。

岸田首相は人と会う場合はノートを持参し、人の話を聞くことを長所としていますが、人の話や社会の観察から何かを感じ取り、政策を自ら考える能力が欠けているように思われます。そのため岸田首相には主体性やリーダシップが感じられません。岸田首相に欠けているものは開成中高出身者に共通の「自調自考」の姿勢だと思われます。