銀行は日銀当座預金の不良債権化に備えるとき

日銀の国債買入が止まりません。6月には16兆円と過去最高を記録したようです。これは海外投資家の国債売りによって長期金利が一時0.265%と日銀誘導目標の0.25%を超えたため、買い支えに回ったためのようです。海外投資家は日銀利上げ不可避とみて、国債を売り崩そうとしているようです。これに対して利上げしたくない日銀が買い支えている構図です。

この構図もそろそろ限界に来ています。それは日銀の国債購入資金が底をついているからです。日銀が国債の購入に使っているのは、日銀当座預金と言われる銀行が預け入れている資金です。日銀当座預金は法律によって預け入れが決められている法定準備預金と銀行が銀行間決済などの必要資金として置いている資金および余った預金を資金運用として預け入れている資金(現在マイナス金利のため事実上無い)があるようです。5月で見ると日銀当座預金493兆円のうち法定準備預金は12兆円であり、残り481兆円は銀行が主に銀行間決済資金として預け入れているようです。当座預金は通常いつ払い出されるか分からない流動性の高い資金ですから長期国債での運用には使えませんが、日銀当座預金の場合銀行間決済の必要性から毎日多額の残高が存在し、全体で見れば固定性の資金とも見えます。従って長期国債で運用してもよいとの判断だと思われますが、日々銀行間決済が行われると残高が大きく減る(翌日また増える)ため、固定預金のように連続性がなく、長期国債の購入原資としては疑問があります(月中において日銀当座預金残高が日銀国債保有高を下回る事態が起こりうる。国債の購入原資として適切な資金源=負債は日銀券のみ。これでは「政府の子会社」による自己ファイナンスになる)。

6月20日の日銀営業毎旬報告で見ると日銀当座預金は564兆円に増えています。問題は日銀当座預金がほぼ全額国債の購入に充てられていることです。6月20日時点で国債残高が540兆円になっており、その後16兆円近く買い増したようなので6月末には560兆円近くの残高になっていると思われます。そうなると6月20日の日銀当座預金残高は564兆円なので購入資金が底をついてきたことになります。即ち日銀はもうこれ以上国債を購入することが出来なくなっていると言うとこです。これが分かれば今後海外投資家が国債を売り浴びせることが考えられます。従って日銀の利上げは近いと思われます(もし日銀が国債を購入する度にその資金源として日銀当座預金という負債勘定(銀行貸付金の原資としての預金勘定のように)を設定しているのなら、この解釈は間違いとなります。そうなら銀行が差し入れた当座預金は殆どないことになるので、そんなことはないと思うのですが。)追伸:この懸念の通りでした。日銀は国債を市中から購入すると負債として日銀当座預金を設定する(銀行の当座預金残高が増える)ようです。これなら際限なく国債を購入できます。ただし銀行はマイナス金利もあり当座預金は絞っているはずなので、国債残高に見合う当座預金を常に日銀に入れているわけではないはずなので、日銀当座預金残高が日銀の国債残高により少なくなる状態が生じると思われます。この場合日銀はどうするのでしょうか?日銀券を発行する?)

日銀が利上げしない根拠となっている物価の上昇も8月には3%に近づくと思われ、9月の政策会合での利上げが見えてきたように思われます。利上げするにしても0.25%でしょうが、これでも日銀保有国債には含み損が発生すると思われます。既に6月15日に2,000~6,000億円の含み損に陥ったとの報道もあり、0.25%利上げすれば1兆円以上の含み損の発生は確実です。それでも自己資本が3兆3,443億円(資本金1億円、準備金3兆3,443億円)あるため債務超過にはならないと予想されますが、今後の利上げを考えれば債務超過が確実な状況となります。日銀は民間企業のように資金繰りに詰まることはないので、倒産はありませんが、信用が大きくぐらつくことは間違いありません。

これにより一番影響を受けるのは国債の購入資金を提供している民間銀行です。国債の購入資金として提供したわけではないのですが、事実上提供した資金が国債に代わっているので、日銀当座預金の安全性は国債の安全性で見ることになります。これまで国債は安全性が高い資産と見なされてきましたが、よく考えるとそうではないことが分かります。国債残高は1,000兆円を超えており、GDP(約530兆円)%比ほぼ200%です。世界の先進国は100%前後であり、200%と言う数字は償還不可能であることを示しています。実際2022年度政府予算を見ると支出107兆円に対して、収入は税収65兆円、赤字国債37兆円となっており、国債は増えこそすれ減ることはないことが分かります。ということは、国債残高1,000兆円の一部は事実上償還不能であるということです。これにより銀行としては、日銀に預けている当座預金に対しては引当金の計上などの損失手当が必要となると考えられます(甘く考えれば日銀が日銀券を発行して損が生じないようにするとも考えられますが、銀行預金だって保険でカバーされる額は一部なのだから、日銀当座預金も全額保護されると考えるのは虫が良すぎます。)また、日銀が債務超過に陥った時点で日銀を要管理取引先とし、日銀当座預金への預け入れを抑えるなど与信管理の見直しが必要となると考えられます(ただし銀行間決済があるから難しいかも。メガバンク間は日銀を通さずに相互決済すればよい)。

銀行が預け入れた当座預金で日銀が国債を購入していることは、融資先が融資された資金で不動産を購入していることと同じであり、返済されない場合は代物弁済となります。不動産融資の場合、抵当権が設定されていますから代物弁済も容易ですが、日銀当座預金が国債に代わっている場合、質権が設定されているわけではないので、代物弁済も容易ではないことになります。従って日銀当座預金が返済不能となれば、上手くいって国債で代物弁済、場合によっては一部回収不能となると考えられます。この考え方が正しければ、銀行は深刻な問題を抱えていることになります。(日銀と銀行間の取引がまだ十分理解できていないので、理解が進むたびに改定していきます。)