スタートアップ担当大臣を置くなら南場智子氏

政府は参議院選挙後の内閣改造でスタートアップ企業の増加を図るためスタートアップ担当大臣を設置する方向という報道です。スタートアップ企業の増加は岸田政権の「新しい資本主義」の4本柱の1つなっていますが、その中身としては「スタートアット5カ年計画の策定」しかありません。従ってスタートアップ担当大臣にこの5カ年計画を中心に政策の中身を作成させるつもりのようです。

これは3月に経団連が発表したスタートアップ増加に対する提言を岸田政権が丸飲みしたものです。経団連の提言では、現在10社程度のユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)を2027年までに100社に増やす目標を掲げ、これを達成するために関連政策実施の司令塔となる「スタートアップ庁」の設立を盛り込んでいます。今回設置される担当大臣はこの提言に沿ったものであり、この担当大臣がスタートアップ庁の設立準備に当たるものと思われます。ならば担当大臣としては経団連でこの提言作りの中心となった経団連副会長(DeNA会長)である南場智子氏しかありません。南場氏はDeNAを創業し、2021年3月期売上高1,369億円、営業利益225億円、時価総額約2,500億円(2022年7月8日)に育て上げており、スタートアップの成功者です。スタートアップで困ること欲しい支援なども体験的に分かっており、地に着いた政策が期待できます。

ただし経団連の提言では、目標設定が間違っており、修正する必要があります。5年間にユニコーンを100社誕生さえるなど不可能です。そもそもユニコーンと言う概念は、投資家の評価の概念であり、企業実体を評価する概念ではありません。投資家は企業を評価するに際し、企業実体はたいしたことなくても株式市場で人気化するとみれば高い評価を付けますし、企業実体は素晴らしくても株式市場で人気化しないとみれば高い評価を付けません。前者の例はソフトバンクグループが投資したWeWorkやOYOなどです。この二つは、実体は単なるオフィス賃貸業やホテルチェーンであり、素直に評価すれば高い評価にはなりません。それをソフトバンググループがIT関連企業のように吹聴し、自ら高い評価を付け、ユニコーンに仕上げました。現在世界でユニコーンと言われる企業は、このように投資家が自らの利益のために評価を膨らませた企業が多いのです。これは経団連のような実業家団体が採用する評価基準ではありません。確かにこの政策を中心となってまとめたDeNAの南場会長は、この仕組みから利益を得られた方なので、これを持ち出すのは分かりますが、一方現役の経営者でもありますから、打ち出した目標が大幅に未達に終わった場合には責任問題になることもご存じだと思います。このユニコーン100社計画は、南場会長が責任を負える計画ではないと思います。

南場会長のような実業家が出す計画としては、ユニコーンの数ではなく、新規起業数や起業後5年以内に売上高が10億円を超えた企業数などなどにすべきだと思われます。新規企業数については10万社を目標と掲げていますので、ユニコーン100社に代えて売上高10億円以上100社とすればよいかもしれません。ずいぶん小さくなりますが、これでも大変な目標です。

国会議員の大臣は業務に通じていない大臣が多い中で、南田智子大臣ならプロと言いても良く、手腕が期待されます。岸田政権の目玉大臣になります。