海自呉総監の発言で分かる自衛隊の公務員化

7月4日の毎日新聞電子版に海上自衛隊呉地方総監部の伊藤弘総監が防衛費をGDPの2%まで増額する動きを「もろ手を挙げて賛成とは言えない」と発言したという記事が載っていました。自衛隊の幹部がこんな発言をするはずがなく、また切り取り記事だろうと思っていたら、そのような声が多かったようで、その日のうちに発言詳細が続報されました。それは以下のようになっています。

記者 「参院選で、防衛費をGDP(国内総生産)比で2%まで増やすことも念頭にするとの議論がある。現場から見て、防衛予算の現状や2%という議論をどう考えるか。」

伊藤総監 「今、5兆円超の予算をいただいている防衛省として、それが倍になるということを、個人的な感想ですけれども、もろ手を挙げて無条件に喜べるかというと、私個人としては全くそういう気持ちにはなれません。というのは、社会保障費にお金が必要であるという傾向に全く歯止めがかかっていないわけです。どこの省庁も予算を欲しがっている中にあって、我々が新たに特別扱いを受けられるほどに日本の経済状態ってどうなんだろう、良くなっているのだろうかということを一国民としての感想ですが、思います。」

これを読むと確かに報道の通りのようです。個人的な感想と述べていますが、その前に「防衛省として」と述べており、立場が混乱しています。総監としての記者会見であり、個人的発言では済まされません。総監の中にこういう考えがあるということであり、それは総監としての判断や業務執行に現れます。伊藤総監のこの意見は市役所の区長かと思われるものであり、自衛隊は市役所職員と変わらない公務員の集団になっているように感じられます。

自衛隊も公務員は公務員ですが、国防という厳しい職務の性質上一般公務員より格上の特別国家公務員とされています。これが平和な時代が続いたため、意識が一般公務員並みになっているということです。これを伺わせることが最近続いていました。昨年8月には米軍撤退によりアフガニスタンにタリバン政権ができたことに伴い邦人の帰国輸送を行うため航空自衛隊が派遣されましたが、ほぼ成果なしでした。理由は邦人が空港までたどり着く手段が確保されていなかったためでした。同じ時期空軍を派遣した韓国は約400人の国民および関係者を輸送しています。韓国は空港までたどり着けるようタリバンや米軍と交渉を重ねていたということです。自衛隊はイラク戦争と同じく「show the flag」で良いと考えていたようです。また今年4月にはウクライナへの支援物資輸送のために自衛隊機をインドの空港に派遣することを決定しましたが、直前になってインド政府から拒否され中止になっています。このように自衛隊には失敗の許されない任務を遂行しているという緊張感が全く感じられません。伊藤呉総監の発言はこれらの出来事と重なります。

ただし伊藤総監の発言意図はこの後の部分にあったとも考えられます。

「ロシアによるウクライナ侵略、これでミサイルや砲弾といった弾の数、それを十分持っておかないといけないという議論がしきりとなされていますよね。一方で、それに勝るとも劣らぬくらい重要な船、飛行機、潜水艦、これらを維持・整備していくということの重要性。通常艦艇も潜水艦も、実は塩の水につかっているんですよね。海水という。放っておくと基本、さびちゃうんです。航空機もたくさん持っています。固定翼もヘリコプターも。一般的な飛行機に比べると非常に低空を飛びます。海面すれすれを飛んでいる。基地に帰ると機体を洗っているんですね。そうやって塩水を落とすことによって、整備を少しでも楽にしようとしています。放っておくと、どんどん悪くなっていく。  極論ですけど、ミサイルや大砲の弾をたくさん仮に買ったとしても、それを撃つプラットフォームである船の手入れを怠ったら海の上に出て行けない。  目を引かれる装備とか技術とかいろいろあるんですけれど、もっと地に足を着いたメンテナンスですとかロジスティクス、ここにももっと注目をしてほしい。その辺に対する国民、一般の理解をいただけたらなというふうに思っています。」

要するに防衛費の増額は、最新鋭のミサイルや砲弾の備蓄に主眼をおいており、今ある装備の維持・メンテナンス・補給体制がなおざりになっていることに対する不満の表明とも取れます。

いずれにしても伊藤呉総監の発言から、中国がハリボテと揶揄する自衛隊の実像が浮き彫りになりました。自衛隊は防衛費の増額と共に解体的見直しが必要となっているように感じられます。

(尚、伊藤総監は1つ勘違いをしています。防衛費増額の議論は社会保障費を削って防衛費を増すという議論ではありません。社会保障費は減らさずに防衛費を増やします。そのために考えられているのが防衛国債を発行することです。現在の日本の法律では赤字国債(税収不足を補うための国債)と建設国債(公共施設など長期間使用するものに使う国債)しか認められていませんが、防衛装備は公共施設と同等のものであり、建設国債と同列に扱ってよいはずです。今法律にないなら法律を制定すればよいだけです。それに日本が侵略されたら社会保障などありえないのであり、社会社会保障費より防衛費が優先します。またこれまで防衛費はさんざん抑えられて来ています。)