金融庁は日銀検査を実施すべき

日銀利上げに関する記事がヤフーニュースに出ると書き込みが殺到します。書き込みは素人も多いですが、中には金融のプロと思われる人も見かけられます。日銀が利上げをしない理由については、日本の物価上昇率はまだ低く(コア0.8%)、今利上げしたら景気を冷やすから当然と言う意見と、物価上昇率は2%を超えており今後もっと上昇するのは確実だから利上げすべきなのだが、日銀は560兆円近い国債を買い込んであり、利上げしたら日銀が債務超過に陥るから出来ないのだという意見に分かれます。前者の意見も尤もだし、日銀が6月に利上げしなかったのは理解できます。しかし1~2%の利上げで債務超過に陥るというのも事実だし、これが日銀に利上げを躊躇させていることも十分考えられます。少なくとも今の日銀は、国債を大量に保有していなかったときと比べてインフレ阻止だけを考えて利上げを決定できる状態にはありません。

利上げで日銀が債務超過になっても日銀は倒産しないから、そんなことは重要ではないという意見も多く見受けられます。日銀にとってはその通りですが、金融システムには多大な影響を与えると思われます。それは日銀が560兆円近い(6月末)国債を日銀当座預金で購入しているからです。ヤフーニュースの書き込みには、日銀は日銀券を発行して購入していると思っている人もいますが、日銀の6月20日営業毎旬報告を見ると国債540兆円に対し、日銀当座預金563兆円、日銀券120兆円、貸付金144兆円となっており、国債は日銀当座預金で購入され、日銀券は貸付金の原資になっていることが分かります(ヤフーニュースの書き込みでは「ベトナム駐在員」の方の指摘が正しいようです)。私は最近まで銀行が準備預金および超過準備預金(0.1%の金利が付与される部分と金利が全く付かない部分およびこれを上回りマイナス金利となる部分がある)として日銀に預け入れている日銀当座預金の運用として国債を購入しているとばかり思っていました。これだと銀行が預け入れた額が日銀が買入れることができる国債残高の上限となりますので、そろそろ上限は近いと思っていました。しかしそうではなく、日銀は国債を購入すると負債勘定に日銀当座預金を建てていると言うことですので、国債購入原資を無限に創造でき、そのため国債がある限り購入し続けることが出来ることとなります。言うなれば日銀は国債のブラックホールです。

この仕組みは盤石なように見えますが、実は欠陥が潜んでいます。それは銀行の資産である日銀当座預金が国債に代わっているということです。この結果日銀当座預金の安全性は国債の安全性で評価されることになります。日本国債はこれまで100%安全な資産とされてきましたが、国債発行額が1,000兆円を超えGDPの200%を超えてくるとそうとは言えなくなっています。今の時点で判断すれば国債残高の相当額が償還不能となっていると考えられます。このため日銀当座預金の返済原資が国債となっている銀行としては、この部分に引当金を建てる必要性が議論されることになります。また日銀保有の国債に含み損が発生すれば、日銀当座預金に含み損に相当する引当金を建てる必要があると言う議論も出てきます。そして日銀が債務超過に陥れば、債権管理上日銀を要管理先とすべきと言うことになります。このように日銀が国債残高を膨らませることは、銀行の与信管理上重大な事態を引き起こします。これに対しては、日銀は日銀券を発行できるから銀行に損害が生じることはないと言う声が強いでしょうが、日銀が原因で金融システムの信頼性に疑義が生じていることは間違いありません。こんな日銀が銀行を考査するのは論外であり、銀行が逆に日銀を考査すべき状況になっています。

ここは金融システムの維持に責任を持つ金融庁が日銀を検査し、国債の保有とその原資について金融システムの責任者として改善命令(または勧告)を発するべきだと思われます。