安倍元首相の警備が杜撰だったのは人事権を失くしたから

7月9日、安倍元首相が暴漢に射殺されるという痛ましい事件が起きました。まだもって実感が湧かない人も多いと思います。それくらい安倍元首相は元気溌剌で死など微塵も予想できない人でした。

安倍元首相は参議院選挙の候補者応援演説中に狙撃されており、撮影していた映像があったことから、撃たれた場面が繰り返しテレビ放映されました。その映像を見ると安倍元首相の後ろががら空きであり、犯人が容易に接近できる状況にありました。これを見て元首相だと警備は手薄になるのかなと思った人は多いと思います。しかし安倍元首相には専用SP1名が付き、地方で演説会などに参加する場合には、各県警察本部から要人警備部隊が派遣されることになっており、こういう杜撰な警備は有得ないケースのようです。

この原因については次の3つの説が言われています。

①奈良県警が要人警備に不慣れで、訓練が行き届いていなかった。

②倍元首相の演説が決まったのは前日夕方であり、警備の準備が間に合わなかった

③北海道でヤジ排除違法判決が出て警察が選挙演説警備に及び腰になった

みんな少しずつ影響しているようですが、一番大きのは①と言われています。奈良は要人の来県が少なく、県警としても要人警備の計画を立てた経験が少なく、警察官も要人警備の経験者が少ないと言うことです。これだと奈良県警の失態で終わりそうですが、どうもあの警備の杜撰さは他に本質的原因があるように感じられます。

それはヤジ排除違法判決の対象となった2019年7月15日の安倍首相が参加した参議院選挙演説会の警備が異常に厳しかったことと好対照をなすからです。だからヤジ排除違法判決が影響したという見解にもなっているようですが、それはないと思います。ヤジを飛ばした人の排除が違法と言うことであり、これは多くの警察関係者がある程度覚悟していた判決内容です。従ってこれにより選挙演説会での要人警備の基本が変わることはありません。要人警備の基本は要人に近づく不審者を排除することであり、ヤジ排除違法判決の後はこの基本を徹底しようということになるはずです。

北海道での警備が異常に厳しかったのは、当時安倍首相の権力が絶大だったことに原因があると考えられます。安倍首相は自分に尽くす官僚を重用し、昇進昇格で報いていました。特に警察官僚が首相官邸の要職を占め、安倍政権は警察官僚政権とも言える実体でした。例えば官僚組織の要である杉田内閣官房副長官、情報収集の中心である北村内閣情報官が警察庁出身であり、多くの警察官僚が周りを固めていました。そのため安倍首相が選挙の応援演説に行く都道府県警察の本部長には首相官邸の警察官僚から警備に細心の注意を払うようにとの指示が飛んでいたと推測されます。北海道での選挙応援の際にも同じことがあり、北海道警本部長が安倍首相の覚えを良くすべく過剰警備を指示したと考えられます。このように安倍首相来訪時の警備は警察官僚のアピールの場になっており、鉄壁さを競っていたと思われます。これが一昨年9月安倍首相が辞任し、昨年9月岸田政権が誕生したことから、首相官邸の中心官僚は警察官僚から財務官僚に変わったと言われています。この結果安倍元首相は警察の幹部人事に影響力を持たない1政治家になってしまいました。これにより安倍元首相来県と言われても県警本部自体がなんとも思わず、その雰囲気が現場に伝わり、あの弛緩した警備に繋がったものと思われます。

即ち、あの安倍元首相に対する警備の杜撰さの本質的原因は、安倍元首相が警察幹部人事に影響力を失ったことにあると考えられます。