企業メディアがテレビの広告収入を削る
最近テレビの衰退が言われています。7月10日の参議院選挙開票特番の際、日本テレビで次のようなやり取りがあったようです。
櫻井翔キャスターが国民民主党の玉木代表に「若い世代に政治に関心を持ってもらうためにはどのようにしたらいいとお考えでしょうか」と質問すると、玉木代表は「YouTubeの発信を増やすことかなと思っていますけど」と答え、その理由として 「(演説会場を訪れた若者に)なんでわざわざ私の話を聞きに来たの?って聞いたら、地上波の人には申し訳ないですけど…もう今若い人は地上波見ていないので」と述べたようです。これに有働キャスターは苦笑しつつ「そんなこともない」と反論します。玉木代表は「いややっぱりね、聞いてみると、ユーチューブなりツイッター見てここ(演説会場)に来ましたっていう人が多いんですね」「地上波がまだ圧倒的に力強いのは認めますけど、いろんなところで発信のルートを作っていかなければいけない」と述べたということです。
この会話は現在テレビがおかれた状況を良く表現しています。若者にとってメディアの中心はテレビではなくインターネットになっています。テレビは全く見ないという若者も多いと思われます。インターネットとテレビの違いは、その向き合い方が能動的か受動的かということにあります。インターネットは自分が知りたい情報を検索する必要があり、主体的能動的に行動を起こす必要があります。テレビはチャンネルを選ぶのは能動的ですが、それ以降は受動的です。内容は映像を使い視聴者をある解釈に誘導しようとしており、操作的と言えます。最近テレビのこの操作的手法が嫌われているように思われます。一方インターネットの情報は1つの事件についても多様な声が溢れており、操作のしようがありません。そのため検索者は、主体的に選択できます。こちらが心地よいと言えます。
従ってテレビが衰退し、インターネットメディアが中心になるのは必然なのですが、もう1つテレビ局を衰退させる動きがあります。それは企業メディアの増殖です。今年3月テレビ朝日ニュースステーションのキャスターをしていた富川悠太アナウンサーが退社しトヨタに入社するとの報道がありました。そこでトヨタの広報活動を調べたら、ユーチューブチャネル「トヨタイムズ」に力を入れていることが分かりました。確かにテレビやインターネットで俳優の香川照之さんが編集長と言う設定で宣伝しています。それまでは香川照之さんのキャラが濃すぎて、何を言いたいのか分かりませんでしたが、あれはトヨタイムズというメディアがあることのアピールのようです。実際の編集長はトヨタ社員であり、かなりの部員がいる組織のようです。アナウンサー(富川氏はジャーナリストと言っている)としては富川氏以前にテレビ東京のアナウンサーだった森田京之介さんが転職しており、着々と体制を整備していることが伺えます。
このトヨタイムズは豊田社長発案のプロジェクトで、これにはトヨタ社長の大手メディア不信があるようです。以前日本経済新聞に事実と異なる記事を書かれたことが発端で、その後も大手メディアの報道ではトヨタが伝えたいことが伝わらないと感じる経験を何度もしたようです。そのためトヨタの考え方や製品・サービスなどを大手メディアを通さず直接伝える方法はないかと考えていたとき、若者がテレビよりユーチューブを見ているという現象を見て、自社メディアとしてユーチューブチャネル「トヨタイムズ」の設置を決断したようです。
年間何百億円(何千億円?)と言う広告宣伝費を使うトヨタなら放送局さえ持てるくらいであり、ユーチューブチャネルのコストなど痛くも痒くもありません。今後も陣容を強化し、新しい企業メディアのモデルになって行くと思われます。それに伴いテレビCMも減らして行くことになりますので(既にあまり見かけない)、今後テレビの広告収入を削ることとなります。この動きは大手企業に広がり、大きな流れになります。そうなるとテレビは、視聴者数の減少に加え資金源も細ることになり、衰退を加速することとなります。電通が本社を売却し、正社員を業務委託に切り替えているのは、この流れを読んだもののように思えます。