日野の再建はトヨタの完全子会社化に行き着く
日野自動車(日野)のエンジンデータ不正は、8月2日の同社特別調査委員会の報告により今年3月に言われていたよりも広範で根深いことが分かりました。当初は2016年秋から始まったと説明されていましたが、これが2003年には始まっており、また対象エンジンも中・大型3機種から12機種に広がっています。この結果影響が及ぶ対象台数は3月の約11万台から約56万台へと拡大しています。
ここで3月に分かった不正内容を確認すると、国土交通省から型式認証を取得するための認証試験のうち
(1)排出ガス性能の「劣化耐久試験」において、排出ガスの後処理装置である「第2マフラー」を途中で不正に交換して試験を行い、データを良く見せていた(中型エンジン)。
(2)燃費測定において、測定装置の操作パネルから燃料流量の校正値を不正に操作し、燃費を実際より良く見せていた(大型エンジン)。
ということでした。今回の特別調査委員会の報告によると、これがその他のエンジンでも行われていたと言うことのようです。ということは、今回の事件は当初言われていたように国の厳しい排ガス規制をクリアするために追い込まれて行われた特殊なケースではなく、日野では常態化していたことになります。
この原因について特別調査委員会は、
(1)上にモノを言えない企業風土
(2)開発現場と経営陣の認識の乖離
(3)本来分けられるべき開発と認証を一部署に任せていたこと
を上げた上で、更にアンケートやヒアリング等の調査から、次の3つに集約しています。
- みんなでクルマをつくっていないこと
- 世の中の変化に取り残されていること
- 業務管理の仕組みが軽視されていたこと
これは一般人からすると分かり易くなるのですが、解決策を導くのは難しくなります。解決策としては(1)(2)(3)から導かれると思われます。
私は特別調査委員会とは違う方向から問題の原因と解決策を考えてみました。
日野は2001年にトヨタが50.2%出資し、トヨタの子会社となっています。その前後の業績を見てみると
1998年3月期 売上高5,892億円 経常利益 32億円
1999年3月期 売上高4,323億円 経常利益-467億円
2000年3月期 売上高6,533億円 経常利益-257億円
2001年3月期 売上高7,040億円 経常利益 30億円
2002年3月期 売上高7,586億円 経常利益166億円
2003年3月期 売上高8,503億円 経常利益192億円
2004年3月期 売上高1兆 516億円 経常利益446億円
・・・
2013年3月期 売上高1兆5,414億円 経常利益669億円
・・・
2018年3月期 売上高1兆8,380億円 経常利益804億円
2019年3月期 売上高1兆9,813億円 経常利益839億円
2020年3月期 売上高1兆8,156億円 経常利益496億円
2021年3月期 売上高1兆4,984億円 経常利益123億円
2022年3月期 売上高1兆4,598億円 経常利益380億円 当期利益-847億円
これを見ると1999年3月期-467億円、2000年3月期-257億円、合計-724億円の赤字となり、2001年4月にトヨタから667億円の出資を受け、トヨタの子会社(50.2%)となっています(1966年から業務提携をして生産受託をしていた)。その後業績は右肩上がりであり、これによってトヨタの取引先に日野のトラックを売り込むなど販売面での連携が進んだことが伺えます。同時に現在日野の売上高に占める海外販売の割合は70%を超えており、海外進出もトヨタと連携して進めたことが伺えます。従ってこれらの面では、日野のトヨタの子会社となるという選択は正しかった言えます。しかし50.2%という中途半端な出資割合だったことと日野の大型トラックの技術はトヨタの乗用車の技術とは相当な違いがあることから、開発面では連携が進んでいなかったと思われます。この結果何が起きたかと言うと、開発部門では逆にトヨタに対する独立意識が強まり、「内と外の意識」が出来上がったと思われます。開発部門の日野プロパー社員が「内」であり、トヨタから来ている社長や出向者が「外」です。これにより重要な技術情報は「内」の者だけで共有され、「外」の者には上澄み情報だけが上がっていたものと思われます。このため不正情報がトヨタから来ている社長に上がるわけがなかったと考えられます。特別調査委員会の報告書では「上にモノが言えない体質」となっていますが、それよりもこの「内と外の意識」が重要と思われます。
従って今後の対策としては、実験データの取得部門と検証部門を分けるなどの定石以外に、「トヨタによる日野の完全子会社化」が必要となると思われます。これは何も驚くことではなく、トヨタには既に成功事例があります。ダイハツです。ダイハツとは1967年に業務提携し、1998年51.2%出資し子会社化、2016年に完全子会社化しています。日野と比べると日野はまだ完全子会社化に至っていないだけです。ダイハツは完全子会社化以降業績を伸ばしており、成功していると言えます。トヨタにとってトラック部門を担う日野は不可欠の存在であり、日野をグループから切り話すという選択は有得ません。そうなると日野の「内と外の意識」を払拭し、トヨタと一体となって業績向上に取り組むことが必要であり、それには完全子会社化しかありません。
日野とトヨタの連携は販売や海外展開では上手くいっていると思われ、日野のライバルであるいすゞに業績面で劣るのは、日野が海外で積極的な先行投資を行っているためのように思われます。日野がトヨタの完全子会社となれば、将来業績面でいすゞを逆転することも可能であるように思われます。