日本電産永守会長の後継者は結局生え抜きになる
日本電産の後継者問題が迷走しているようです。永守会長が三顧の礼で迎え2020年4月に社長に就任し、2021年6月にはCEOに昇格した元日産専務関 潤氏が、2022年4月COOに降格となっています。CEOには永守会長が返り咲きましたので、永守会長が関社長にCEO失格の烙印を押したことになります。しかし一方では「日産経営から日本電産経営に変わってもらい名実ともに後継者になってもらう」「見習いでいま一生懸命教えている」「逃げたら生え抜きの人材にCEO職を渡す」とも語っていますので、全く見捨てた訳ではないようです。
2022年3月期決算は、売上高が前年同期比18.5%増の1兆9,181億円、営業利益が7.2%増の1,714億円、当期純利益が12.2%増の1,368億円となり、いずれも過去最高を更新していますので、普通の会社ではあり得ない人事です。
原因として考えられるとすれば、業績が堅調に推移する中で、関氏が担当するEV向け車載モーター事業が減益になったことに加え、業績が伸びていないことです。これは電気自動車の普及が遅いこととモータに使う半導体が不足していること、またレアアースの価格が高騰していていることなどの要因が重なったためと言われています。日本電産は2030年に売上高10兆円を目指す計画を設定しており、そのため2025年の売上高計画は4兆円としています。2022年3月期の売上高は1兆9,181億円であり、4年間で売上を2倍にする必要があります。これは車載モーター事業に掛かっており、関氏招聘もこれを期待してのものだったと思われます。関氏もこれは十分承知しており、同社が手掛ける駆動用モーターとインバーター、変速機を一体化した電動駆動モジュールE-Axleがあれば十分可能性はあると考えていたと思われます。しかしE-Axcleは電気自動車の中核モジュールであり、ガソリン車で言えばエンジンとトランスミッションです。これを世界の自動車会社が易々と外部から購入するとは思えません。現にトヨタではグループ会社でオートマチックトランスミッション(AT)とハイブリッド用モーターを手掛けるアイシンが実用化を担当しています。日本電産はトランスミッション技術を有していませんので、日産の業績悪化に乗じて日産が株式の75%を持つ変速機メーカージャトコの買収を提案したようですが実現していません。日産もE-Axleは内政化を考えていると思われます。こう見てくると日本電産が今後売上の大幅な増加を見込むE-Axle事業は、一筋縄ではいかないことが分かります。そうなると関社長のCEO復帰も危ないと言わざるを得ません。
これまで永守社長は外部に自分の後継者を求め、4人を招聘しています。先ずカルソニックカンセイ社長だった呉文精氏、次にシャープ副社長の片山幹雄氏、次に日産自動車タイ社長だった吉本浩之氏そして関氏です。呉氏は日本興業銀行から米国大学でMBAを取得し、外資系企業のトップを務め日産系の部品会社カルソニックカンセイの社長にスカウトされていました。呉氏は金融知識と経営管理技術が持ち味であり、技術系ではありませんから、永守氏のように技術を持ち味に会社を大きくしてきた経営者とは肌合いが違い過ぎます。従ってミスマッチは最初から明らかでした。片山氏は優秀な開発技術者でしたが、開発する物が違いますし、人のマネジメントは得意でなく、経営者タイプの人ではありませんでした。吉本氏は文系出身者でカルソニックカンセイの専務を務めるなど呉氏に近い経歴であり、呉氏の二の舞が予想されました。しかし日本電産子会社の社長として実績を上げたようで社長に抜擢されましたが、2年ほどで関氏と交代しています。関氏は日産で製造部門勤務が長いようなので、大きな組織をシステマティックに動かすのは得意だと思われます。また日産の中国法人東風日産の社長も経験しており、E-Axleを中国自動車メーカーに売り込むことが期待できます。しかし短期間に売上を倍増するとかの仕事の仕方はやっておらず、永守氏の期待(4年間で売上を2倍にする)に沿うのは難しいと思われます。
こう考えると永守氏健在の間は関氏がCEOに復帰するのは難しいと考えらえます。もしCEOに復帰することがあるとすれば、永守氏が執務できなくなったときでしょう。永守氏が健在の場合、後継者はどうなるのかと言うと、結局は日本電産生え抜きが就任することになるのではないでしょうか。永守氏を身近に見てきた社員のなかから選ばれるような気がします。京都で日本電産と並ぶ優良企業である京セラは代々生え抜き社員が社長に就任し、稲盛イズムを承継し成功しています。