熊本はTSMC進出を機会に教育水準を上げないと
熊本県が20日公表した2022年の県内基準地価によると、菊陽町原水の工業地の上昇率が31・6%となり、全用途を通じた全国の調査地点で1位だったと言うことです。原因は世界的な半導体メーカー台湾積体電路製造(TSMC)進出のようです。周辺の大津町や合志市、菊池市でも工業地や住宅地、商業地の価格が上がっており、TSMC進出の波及効果の大きさが伺えます。
TSMCの工場が稼働する2024年12月に向けて、熊本県では周辺道路の拡幅や熊本空港までの鉄道延伸などのハード面のインフラ整備を行う計画となっています。一方心配されるのがソフト面のインフラ整備です。その中心は台湾からやってくるTSMC社員の子供の教育環境となります。TSMC熊本工場の運営には約1,700人が必要となり、日本で約1,200人を採用し、台湾のTSMCから約300人が来熊し、共同出資者でありかつ製品の大口購入者であるソニーから約200人が出向する計画となっています。台湾のTSMCからやってくる社員は中堅・ベテランの社員になるでしょうから、多くが家庭を持ち子供もいると想定されます。この場合、当該社員や子供にとっては教育環境が最も気になるところです。これについては現在熊本に唯一あるインターナショナルスクールが近くに移転し、受け皿の1つになる他、ルーテル学院も受け入れを表明しているようです。インターナショナルスクールは1人年間200万円くらいの学費が掛かるようなので、相当の幹部社員の子供しか行けないと思われます。そうなると大部分の社員の子供はルーテル学院に行くかと言うとそうはならないと思われます。台湾の人たちが希望する教育とルーテル学院が提供する教育には相当の開きがあると予想されます。
この問題は大企業の地方の工場や支店への転勤でもあります。東京に本社がある企業の場合、子供が中学生以上だと単身赴任が多くなっています。それは東京の場合、中学生の約2割は私立中高一貫校に通っており、公立中学校でも有名高校または大学を目指して塾通いが普通であり、地方に行くと教育環境が大幅に劣るからです。大きな工場城下町では企業が社員の子供のために塾を用意しているケースもあります。このように子供の教育環境は企業の工場進出に当たり重要な決定要件となっています。
熊本にはソニーの大きな半導体工場もあり、東京の本社から多くの社員が転勤で来ていると思われますが、殆どが単身赴任ではないでしょうか。もしそうなら熊本の教育環境が貧弱だからです。毎年文部科学省が実施している全国学力・学習状況調査(学力テスト)の結果を見ると全教科とも全国平均を下回っており、熊本の教育水準は低いと言えます。従って子供を伴った転勤は選択しえず、単身赴任となります。今の熊本の教育水準のままなら、これと同じ状況が台湾からやってくるTSMCの社員にも起こると考えた方が良いと思われます。その結果台湾との人的交流は深まらず、台湾企業の工場があるだけの関係になります。
TSMCの従業員の採用においても熊本では人材がいないと言われており、多くが県外からの採用になると思われます。それは熊本の教育水準が低く、専門人材を養成する教育環境がないために起きたものです。
TSMCの進出を機会に熊本県は、教育水準を引き上げる必要があると思います。次のことが考えられます。
- 小中学生の学力向上
・熊本県教育委員会でネット塾を用意し、小中学生は誰でもいつでもネット塾の授業を受けられるようにする。
・私立中学校を増やす。
- 高校普通科を解体し、また工業高校および商業高校を5年制にして、将来の職業に応じた高等専門学校(高専)を中心とする。例えば将来技術者になるため大学工学部に進学する計画なら工業高専に、公認会計士や税理士になる計画なら商業高専に(大学は経済学部や商学部などに編入)、農業をやりたいのなら農業高専に(大学は農学部に編入)という具合に将来就きたい職業に応じた高専を用意する。これで高専―大学の一貫教育となり、高度な専門人材を養成し、今後広がる企業のジョブ型採用にも対応できる。普通科は将来設計がない子供の進路となる。
- 熊本大学や県立大学は高専からの一貫教育を基本とした教育体制に移行する。
これにより熊本の人材レベルは5割アップします。そうなれば熊本への進出企業が増えますし、転勤者も子供連れでやってくるようになり、熊本の県民力は大きく向上します。