国債は日銀券引換保証付きの借用証券

ロシアのウクライナ侵攻によって日本の防衛力強化が急務となり、長くGDPの1%未満に据え置かれてきた防衛予算も2%を目標に増額することとなりました。そこで増額する分の予算をどうやって確保するかが問題になっています。所得が上がらない中で物価が上昇しており、所得税や消費税など庶民の負担となる税金の引き上げは不可能です。そこで当面は国債を発行して賄うことになると思われます。そうなると既に国債発行残高は1,000兆円を超えており、このまま増え続ければどうなるのだろうと心配になります。それに税収が足りない中でこれだけの借金どうやって返済するのかも気になるところです。それでも多くの国民は自分の借金とは思っていないので、これ以上深く考えません。このような場合普通なら学者やエコノミストが答えを出してくれるのですが、納得のいく答えは出されていません。

安倍首相・黒田日銀総裁体制になって、経済活性化のため国債を大量に発行するとともに、銀行貸し出しを増やすため銀行が持つ国債を日銀が買入れて来ました。9月20日の日銀営業毎旬報告を見ると日銀買入の国債残高が約540兆円となっていますので、国債発行残高の半分は日銀が持っていることになります。日銀は財政法5条で国債を財務省から直接引き受けることは禁止されていますので、これは金融調節の手段として実施していることになります。従ってどこかで縮小しなければならないのですが、そうはならずこの状態が恒常化するか、買入残高が増加すると予想されます。1,000兆円を超える国債の発行残高は日本の現在のGDP約530兆円から考えると返済不能であり、日銀の買い入れが無ければ新規国債の消化が難しくなっている可能性があります。現在消化されているのは、日銀買入で市中には500兆円未満の国債しかなく品不足になっていること、またいつでも日銀が買入れるという安心感があるためと考えられます。

普通の人は、日銀が約540兆円の国債を買入れている原資は日銀券を発行して賄っていると考えると思いますが、違います。銀行が預金など余ったお金を日銀に預けている日銀当座預金を充てています。日銀には9月20日現在約513兆円の当座預金があります。国債買入残高とほぼ釣り合っているのが分かります。この当座預金の大部分には利子(0.1%程度)を付けていますので、銀行の遊んでいるお金の運用としては悪くありません。また国債にはそれ以上の利子(例えば0.25%)が付いていますので、日銀はこの利子収入の一部を銀行に払っていることになります。そして余った利子収入の殆ど(2021年度は1兆3,246億円)は国庫に納付しますので、国には払った国債利子の大部分が戻ってきます。このように日銀の国債買入は、国・日銀・銀行の三方良しなのです。従ってこの3者にとっては悪くない制度です。

しかし冷静に考えると銀行が預けた日銀当座預金が国債に代わっており、国債の償還不能リスクが全て銀行に掛かっていることになります。即ち、国債が償還不能となれば、日銀が当座預金を銀行に返せなくなり、銀行が損害を被ると言うことです。銀行は日銀当座預金が返還不能となることは有得ないと考えているでしょうが、銀行預金が1,000万円までしか返還保証されないことを考えれば、日銀当座預金も全額返還保証されることは有得ないと考えるのが相当です。このことに銀行が気付けば今後日銀に預ける当座預金を減らしてくると考えられます。そうなると日銀は今の仕組みは続けられなくなります。

ではそれで日銀は国債の買い入れが出来なくなるかと言うと、それはありません。現在国の予算の約40%は国債であり、借換債や新規発行債の引き受けが無ければ予算が成り立ちません。従ってこの場合日銀は日銀券を発行して国債の買入れを続けます。日銀が買入れを続ければ、国債は市中で消化できます。このように国債が市中で金融機関や国民から購入されるためには、国債は必ず日銀が買入れるという保証があることが必要です。国債の発行元は財務省ですが、安倍元首相が言ったように日銀は財務省の子会社であり、財務省に代わって国債を買入れます。日銀が当座預金を使って国債を買入れている間は資金運用ですが、日銀券を発行して買入れれば国債の買入消却となります。こう考えると国債は日銀券引換保証が付いた借用証券と言うことになります。従って国債は必ず日銀券と引き換えられます。問題はその結果日銀券の量が増えて、償還時には価値が減少することです。現在1億円の10年物国債を購入したとして、10年後には1億円償還されるけれどその価値は1,000万円になっているということが起こります。