銀行融資の原資は架空預金
この標題は銀行が不正融資をしているという意味ではありません。銀行の融資の原資(元)は我々や企業の預金(貯金)だと思っている人の誤解を解くためにあえてセンセーショナルに書いたものです。銀行員が登場するドラマなどで銀行員が「私どもは皆様からお預かりした大切な貯金を使ってご融資しています」と言うのを聞いたことがある人もいると思います。聞いたことはなくてもそう思っている人は多いのではないでしょうか。そう考えないと融資の原資がありません。
しかしこれは誤解です。銀行は我々や企業の預金を融資に回しているわけではありません。銀行は預金(融資の元)を勝手に作って融資をしているのです。例えば銀行が企業に100億円の融資をするとします。この場合銀行は企業の口座に融資金100億円を振り込むと同時に銀行帳簿の負債勘定に預金100億円と記載します(銀行にとって我々の預金は返済の必要があるので負債となります)。要するに融資原資を創造しているのです。通常負債は返済が必要なものですが、この負債は返済の必要がありません。誰かから預かった、あるいは借りた訳ではないからです。従って我々が知っている負債とは全く違います。これを負債とするのはおかしいと思いますが、融資先が100億円返済したら消えてしまいますから、この点では負債と同じなため負債としているようです。従って銀行は我々や企業から預金を集めなくてもいくらでも融資ができます。銀行のこの機能を信用創造といいます。お金は日銀が日銀券を刷らないと増えないと思っている人が多いと思いますが、銀行が預金を創造し融資をすることによって増えているのです。これは何も融資に限らず銀行が国債を購入する場合も同じです。例えば国債を100億円購入する場合も銀行は負債勘定に預金100億円と記載すればよいのです。だから銀行はいくらでも国債を購入できます。
このように創造された預金はコスト0であり、融資金利が5%だとすると5%丸ごと利益となります。しかし融資した分が全部返ってくることはないため、一部に貸倒が発生しそれがコストとなります。例えば1億円を金利5%で10社に融資すると融資額は全部で10億円ですから、年間5,000万円(10億円×0.05)の利息収入がありますが、そのうち1社が倒産すると2年分の利息収入がなくなります。従ってコスト0とは言えたくさんの倒産が出ないよう融資の審査は慎重にならざるをえません。しかし融資の原資である預金はコスト0ですから、融資が返ってこなくても銀行は殆ど損をしません。損はこの融資に関わった行員の人件費などの経費分だけです。従って例えば1,000億円の融資がある企業が倒産し1,000億円が返ってこなくなったとすると、損益計算書上は1,000億円の損失となりますが、原価は0であるため実質的な損失はないことになります。ならば銀行は融資でいくら損失を出しても倒産しないはずです。実際1990年以降の不動産バル崩壊で銀行は不動産会社への融資などで100兆円を超えると言われる含み損を抱えましたが、倒産に至ったところはありませんでした。融資の原資がコスト0であることを考えれば当たり前と言えます。こんな銀行が倒産することがあるとすれば、損益計算上の損失が余りにも多く経営が杜撰と判断され、金融庁から銀行免許の取消を通告された場合(その前に廃業を決定する)だと思われます。
このような信用創造機能は日銀にもあります。日銀券の発行については多くの国民が知るところですが、これは余り行われていません。日銀の信用創造としては、日銀当座預金が中心です。例えば現在日銀は約556兆円(10月31日現在)の国債を銀行などから買入れていますが、この買い入れ資金は、日銀の負債勘定に日銀当座預金556兆円と書いて創造しています(10月31日現在は495兆円)。銀行融資の際の預金と同じ仕組みです。従って日銀は国債を無限に買入れることができます。日銀が国債を銀行などから買入れる理由は、銀行から国債を取り上げ、銀行のこの分の資金を民間融資に回すようにするためですが、銀行は戻ってきた資金で原資となっている預金勘定を消せばよく、必ずしもこの分を民間の融資に回す必要はありません。このように日銀による国債買入で銀行の民間融資を増やそうと言う試みは、制度上の弱みがあると言えます。
最後に、銀行にとって我々から預かった貯金も預金と言う負債であり、銀行が融資するための原資も預金という負債ですから、銀行の預金には性格の違う2つの預金があることになります。融資の原資が我々からの預金でないとすると、何故銀行は我々から預金を集めるのでしょうか。たぶん顧客サービスと顧客の固定化、ビジネス機会の獲得のためではないかと思います。少なくとも我々から預金を集めないと銀行がやっていけないということはありません。
(尚これは私が国の財政・資金循環を理解するために書いています。理解不足があると思いますが理解途上だと思って大目に見て下さい。)