ルノーは日産から撤収する作戦
日産とルノーの出資見直しなどを巡る協議が長引いているようです。
当初11月中旬に合意に至ると言われていましたが至らず、12月2日の協議でも合意に達しなかったようです。
今回の協議のポイントは2つのようです。1つは現在ルノーが日産に43%出資し、日産がルノーに15%出資している関係を、対等な出資関係とすること。2つ目はルノーが設立する電気自動車の新会社に日産と三菱自動車が出資すること、です。こののうち出資関係の見直しはほぼ合意できているようですが、電気自動車の会社への出資は、日産の電気自動車関係特許の移管や利用権が絡み難航していると言われています。ルノーは内燃機関部門については中国吉利汽車との合弁会社に移管する計画であり、今後は電気自動車の会社として生き残る決断をしたようです。一方日産はルーフなど電気自動車で先行したものの思ったほど伸びておらず、電気自動車に専念するのは時期尚早と考えているように思われます。この結果両社の戦略はかみ合わず、これが協議の難航となって表れているようです。もしルノーが今後早いスピードで内燃機関はすたれ電気自動車が中心になると考えているとすれば、暫く内燃機関を中心に据える日産には将来性がないことになり、ルノーが日産に出資しておく意味がなくなります。そのためルノー出資分を日産が15%まで28%買い取る(約5,000億円)ことはルノーにとって歓迎すべきこととなります。更に日産がルノーの電気自動車の会社に出資(1,000億円程度と言われている)することになればトータル6,000億円程度の資金を日産から回収することとなり、ルノーは日産に投入した金額を回収することになります。これに日産が保有する電気自動車関係の特許をルノーの電気自動車の会社に移管または自由に使えるようにすれば、日産の必要性は全くなくなります。
このように考えると今回のルノー提案の真意は、日産撤収(切捨て)であることが分かります。
ルノーが本当に日産を必要としているなら、ルノーは日産にTOBを掛け8%の日産株式を取得し、ルノーの51%子会社化すべきなのです。そうすれば役員は全員ルノーが出すことが出来ますので、日産はルノーの思い通りになります。これは本来ルノーと日産の経営統合が表面化しときに実施すべきでした。43%の株式を保有しておれば実質的に子会社であり、日産のいまのような態度はありえません。2019年1月に伊藤忠商事がデサントにTOBを掛けましたが、TOB開始直前の伊藤忠の持ち株割合は約30%でした。2021年9月にはSBIが新生銀行にTOBを掛けましたが、TOB開始直前のSBIの持ち株割合は20.32%でした。それでも両方とも成立していますから43%も持っていればTOBの成立は確実でした。
日産は1999年に一度倒産しかかっており、ルノーの傘下になって再建を果たしています。あれが国内企業の支援で再建していたらゴーン逮捕前のような優良企業にはなっていません。やはり日産が国際市場で売上を伸ばすためにはルノー流の経営が不可欠です。
ゴーンなき後の日産は、2019年度に6,712億円、20年度も4,486億円の損失を出しましたが、2021年度には2,155億円の黒字に転換し、2022年度は1,550億円の黒字を想定していますから再建は順調にように見えますが、販売台数は2017年の577万台から2021年度には388万台と約190万台減少しており、販売力は弱体化していることが伺えます。これが日産主体経営の実体であり、このまま行けば2回目の経営危機に直面することは想像に難くありません。
従って日産は株式買取による対等経営よりもルノーとの経営統合を選ぶべきなのですが、たぶんもう手遅れです。それは日産が2兆円近い借入金を抱えており、統合すればこの負担がルノーに掛かってくること、およびルノー本体が電気自動車の新会社になるからです。ここで日産ができることと言えば株式を買い取らないことです。今のままならルノーは日産の借入金約2兆円の43%分が帰属することになりますから、容易に逃げられません。それに28%を買い取るなら日産は新たに約5,000億円の借入が必要となり財政的には破綻一歩前の企業状態となります。ルノーの日産への出資割合43%はルノーにとって困った状態となっており、日産にとっては好都合(ルノーは逃げられない)と言えます。今回のルノー・日産交渉でのルノーの狙いは、日産への投下資金を回収し、日産の電気自動車関係の特許利用権を確保して、日産から撤収することであり、日産としてはルノー保有の日産株式を買い取らないことがベストです。