NHK稲葉会長で分かる日銀総裁選びの現在地
次のNHK会長に元日銀理事の稲葉延雄氏が決定したという報道です。稲葉氏は2008年まで日銀理事を勤めており、日銀総裁の声もあったということです。その後リコーに移り、取締役会議長を務めたことから、現前田会長に続く財界人からの登用とも言われています。しかし稲葉氏は日銀勤務が長く、リコーで取締役会議長を務めたのはある意味無害な人だったからであり、財界人とは言えないと思われます。やはり稲葉氏は日銀の人と見るべきです。
そこで多くの人がなぜ日銀出身の稲葉氏がNHK会長に浮上したのか疑問に思ったのではないでしょうか。私も大いに疑問に思いました。ある新聞では元丸紅社長の人がNHK会長に内定したとの報道もあり、こちらの方が納得感がありました。これについてはある雑誌が、前田会長の独断専行に対して自民党やNHK内部に反発が強く、前田会長推薦の会長人事は潰されたと報道しました。たぶん事実だと思います。前田会長になるまでNHKは全ての経営事項を自民党の総務委員会委員とりわけ「放送法改正に関する小委員会」メンバーにお伺いを立てていましたが、前田会長になってから無くなったようです。前田会長はみずほフィナンシャルグループの社長経験者ですから、経営事項を予め自民党に相談するなどプライドが許さなかったと思われます。この結果NHKを守ってやっているという自負がある自民党総務委員会のメンバーが前田会長にいい思いを持っていなかったのは当然です。これが10月の受信料値下げ決定の場面で表れ、前田会長が企図していた衛星契約だけの値下げが通らないこととなりました。結果的には地上契約も含めた値下げになりましたから、受信契約者にとってはよかったと言えます。
前田会長の任期は来年1月25日まででしたから、この時期にはNHK会長選びが始まっていたと考えられます。前田会長としては自分が敷いた路線を踏襲してくれる人を据えたかったでしょうが、それは許されない状況だったようです。前回前田会長となったのは、前田氏が安倍首相を支援する財界人のメンバーだったからと言われており、安倍首相の指名と思われます。その前の上田会長を誰が指名したかは分かりませんが、上田会長の前の籾井会長は間違いなく当時の麻生副首相です。籾井氏は麻生氏の選挙区の福岡筑豊出身で、当時のNHK経営委員会委員長は石原JR九州会長でしたから、麻生氏の鶴の一声で決まったと思われます。このようにNHK会長は時の政権要人との交友関係で決まることが多いのですが、稲葉会長の場合は特殊な要因があるように思われます。それは日銀総裁選びが並行して進んでいることです。日銀の黒田総裁の任期は来年4月15日までですが、来年早々には絞り込みが行われる必要があります。次の総裁としては、日銀からという説と財務省からという説がありますから、両方から候補者の棚卸が進められていることになります。そこで日銀側の候補者の1人として出てきたのが稲葉氏だと思われます。稲葉氏は日銀時代総裁候補の1人だったと言いますし、その後リコーの取締役会議長をやっていますから、財界人としても扱えます。それでも稲葉氏は社会的には無名であり有力候補にはなりえません。ところがこの日銀総裁選びには麻生元財務大臣が加わっており、麻生氏は元総務大臣でもありNHK会長選びにも加わっていたことから、麻生氏がNHK会長に稲葉氏を推すことを思いついたものと思われます。次の日銀総裁には日銀が国債の保有機関化していることを考えると財務省出身者しかありえないことから、日銀出身者をNHK会長にすれば日銀にも配慮したことになります。このようにNHK稲葉会長は日銀総裁選びの中から出てきたと考えると理解できます。これが当たっているとすれば、次の日銀総裁は財務省出身で黒田総裁と同じ経歴となる浅川アジア開発銀行総裁だと思われます。