日銀の国債買入による量的緩和は嘘

日銀毎旬報告を見ると11月30日現在国債残高は約561兆円になっています。これの原資は何かと言うと日銀当座預金約494兆円などです。日銀が国債を購入する理由については、銀行保有の国債を買入れることによって銀行の手持ち資金を増やし民間融資に回るお金を増やすため、言い換えると金融の量的緩和のためと言われています。しかし日銀のバランスシートを見るとこれは嘘であることが分かります。というのは、日銀が銀行から買入れた国債の代金はそのまま日銀当座預金に置かれて、融資などには回っていないからです。最近の日銀当座預金は国債残高をわずかに下回っていますが、少し前まではほぼ同額となっていました。これは日銀が銀行から国債を買入れた代金はそのまま日銀当座預金に置かれ、そのお金で日銀は国債を購入していることになります。ということは、銀行が国債を購入する代わりに日銀が同じお金を使って国債を購入していることを意味します。すなわち約561兆円のお金が日銀に滞留しており、民間に回る余地がないということです。このようになるのは、日銀当座預金の大部分(預金準備金は除く)に0.1%の利子を付けているからです。民間銀行の当座預金には利子は付かないのに、日銀当座預金に置いておけば民間銀行の1年定期預金以上の利息が付くのですから銀行が動かさないのは当然です。日銀は日銀当座預金が増え過ぎないようにするためにマイナス金利を導入したと言いますが、この残高をみると殆ど効果がない設定になっていることが分かります。本気で金融の量的緩和を進めるのであれば、日銀当座預金の利子を廃止すれがよいのですが、日銀にその気は全くありません。それは日銀当座預金で国債を購入している限り日銀の国債購入は余っている資金の運用であり、国に融資する財政ファイナンスではないと言い張れるからです。日銀が国債を直接引き受けることや国に融資することは財政法5条により禁止されていますのでできないのは当然ですが、日銀が日銀当座預金ではなく日銀券を発行して国債を購入すれば、日銀のバランスシート上国債の直接引き受けと変わらなくなります。従って日銀は日銀券を発行して国債を購入している形にはしたくないのです。日銀の1年前の国債残高は約529兆円であり、今年11月30日時点と同様に500兆円を上回っていることから分かるように日銀保有国債は1年以上保有する長期資産となっていることから、その原資は長期性資金が望ましいことになります。不動産を購入する資金が当座預金ではダメで、長期借入金でないといけないのと同じ理屈です。これについては前年同期の日銀当座預金も約537兆円と今年11月30日の日銀当座預金494兆円が大差ないことから(43兆円の減少はちょっとしたサプライズではある)、日銀当座預金は長期性の資金と見做すことができ問題ないという理屈だと思われます。このように日銀当座預金は国債購入資金に充てられるように設計されており、日銀と銀行の間にその旨のコンセンサスがあると思われます。もし本当に国債買入で金融の量的緩和を目指すなら、国債買入資金は日銀当座預金ではなく日銀券を発行してこれを充てるべきなのです。その上で日銀当座預金に付している0.1%の金利を廃止すれば、銀行は日銀当座預金に置いておく意味がなくなりますから、約494兆円の日銀当座預金の大部分を引き揚げます。ではそれが民間融資に回り金融の量的緩和に繋がるかというと、そうはなりません。銀行は国債を購入する際にその原資として預金勘定(債権者のいない負債。信用創造という。日銀券の発行みたいなもの。)を建てており、国債の回収としてこの預金勘定を消します。即ちチャラにするのです。これによって国債購入前の状態に戻るだけで、融資には殆ど回りません。ただし良い融資先を探す努力はするようになります。

このように現在行われている日銀の約561兆円にも上る国債買入には、金融の量的緩和の効力は全くないことが分かります。従って日銀の国債購入の目的は、金利上昇の抑制と国債の市場消化余地を作るためであることになります。そして黒田総裁の深謀としては、国債をできるだけ日銀に集め、最後には同額の日銀券を発行してこれと相殺するすることによって国債を消し去る(償還した状態とする)ことにあると思われます。国債は最終的にはこのようにして償還されるのであり、税金で償還されるものではありません。国債を発行すれば将来の世代に負担を掛けることになるという言葉に騙されてはいけません。