防衛費安定財源はGDP増大でしか確保できない

自民党は防衛費増大の財源を増税で賄うと決定しました。ただし党内の反対も強く、その内容と時期については来年以降に先送りしました。来年統一地方選挙があることから、その後決めることにしたようです。相変わらずの狡猾さです。

さて防衛費増大の財源を巡っては、増税派と国債派の激しい対立がありました。この問題を議論する自民党政務調査会の会合では怒号が飛び交ったとの報道です。増税派の論拠は、

岸田首相:「今を生きる国民が自らの責任として重みを背負って対応すべき」「やはり安定的な財源で確保すべきであると考えた」

猪口邦子元少子化担当相:「命をかけて国を守る人を税金で支えるというメッセージを出すのが政治の仕事だ。国民国家の基本は防衛を税金で賄うことではないか。自衛隊を税金で支えず、国債で(支える)とは失礼に過ぎると思う」

稲田朋美元防衛大臣:「安定財源(税)を考えるのが責任ある考え方」

などです。

一方国債派の論拠は、先ず物価が高騰し庶民の生活が苦しくなっている現状で増税を行うのは無理があるという考えが前提で、防衛予算は安倍元首相が生前に述べていたように「道路や橋を造る予算には建設国債が認められている。防衛予算は消耗費と言われているが、間違いだ。まさに次の世代に祖国を残す予算だ」なので、国債を充てても良いと言うものです。

それに高市早苗議員や西田司議員など経済が分かる議員は、ここで増税を行えば経済が冷え賃上げに水を差すことを心配しています。

私は安倍元首相が防衛国債論を言い出す前にブログで防衛国債の発行を提唱しましたので、この5年間の防衛費増額は防衛国債で賄うべきという考え方です。防衛は国の存続基盤であり、建設国債がよくて防衛国債がいけないという理屈は成り立ちません。他国の侵略が切迫しているときに、防衛国債は発行できないとして大増税を実施するでしょうか?そんなことでは国は守れませんし、政権がひっくり返ります。今の防衛力増強の必要性は、ロシアのウクライナ侵攻により突発的に発生したものであり、あるレベルまでの防衛力増強は急ぐ必要があります。そのため今後5年間は急ピッチの防衛費の増額が必要となります。これはコロナ蔓延による国民の生活維持のため国債を発行して現金給付したのと同じことです。5年を過ぎれば日本に必要な防衛力のレベルが構築されるので、それ以降は岸田首相が言っているような安定的防衛予算の問題となります。従って岸田首相らの考え方は平時の考え方であり、必要な防衛力の欠如という国家の緊急事態にある今の日本には当て嵌まりません。いい人だけど何か抜けているように見える岸田首相らしい考え方と言えます。

岸田首相らは増税なら防衛費の安定財源になると考えているようですが、それは間違いです。現在日本では、税金や社会保険料などが収入に占める割合である公的負担率が約45%に達しており、庶民の生活はぎりぎりの状態にあります。2020年の日本人平均年収は約433万円であり、ここから公的負担を除くと約238万円が生活費となります。これは公務員年金世帯の生活水準であり、子供がいる世帯の生活苦は歴然です。こんな中で岸田首相や猪口議員、稲田議員のような国士論を振り回されたら、多くの国民が反発します。たぶんこれで自民党は次の総選挙で政権を失うことになると思います。主張されている方は自分の美しい主張に陶酔し、そこまで思いが至っていないのでしょう。

そもそも増税では防衛費の安定財源にはなり得ません。今年の防衛予算が5兆6,500億円程度でこれを2027年度には10兆円程度(GDP2%)に持っていく計画のようですが、増額される約4兆円は消費税約2%に相当します。ようするに防衛費増加分を増税で確保しようとすれば消費税2%に相当する増税を実施しなければならないということです。岸田首相ら増税派は、国民の現在の生活状況でこれだけの増税ができると思っているのでしょうか。またこれだけの増税を主張し続けられるのでしょうか。自分の議席を失う、自民党が政権を失う覚悟がなければ無理です。

米国や中国など軍事力が強い国を見れば分かるように、その源泉はGDPの大きさにあります。日本の2021年度のGDPは約537兆円ですが、米国は約3,200兆円、中国は約2,500兆円です。2020年度の軍事費は、米国約106兆円、中国約35兆円でGDP比では3.3%、1.4%となります。これを見れば分かるように強大な軍事力の背景はGDPの大きさにあります。そしてそのGDPを見ると日本は1990年以降横ばいですが、米国は約4倍、中国は約40倍に増加しているのです。従って米国や中国は増税で軍事力を増強したのではなく、GDPの増大に伴う税収の自然増加で増強したことになります。

日本のGDP増加を伴わない増税による防衛費調達はロシア(GDP約137兆円で軍事費は約9兆円、GDP比約6.5%)と同じであり、いざ戦争になればウクライナ戦争におけるロシア状態(税収不足で弾薬や通常装備が足りない)となります。防衛力強化はGDP増加でしかなしえず、継続的に防衛力強化を図るとすればGDP倍増を国家戦略に掲げる必要があります。そしてGDP倍増の肝はGDPに占める輸出の割合を現在の約18%からをドイツ(約48%)や韓国(約42%)並みに引き上げることです。