日銀は保有国債を毎年定額償却すべき
日銀は12月20日、従来0.25%程度としてきた長期金利の変動許容幅を0.5%に拡大すると発表しました。黒田総裁は利上げではなく変動許容幅の拡大だと強弁しましたが、実質的には利上げです。この発表については、多くのエコノミストが予想外だったようですが、9月の時点である程度予想できました。9月の政策決定会合後の記者会見で黒田総裁は「当面金利を引き上げることはない」と述べた上で「当面は数カ月ではなく2~3年の話と考えてもらっていい」と乱心レベルの発言をしました。なぜ乱心レベルかというと、黒田総裁の任期は来年3月までであり、2~3年先のことにはコントロールが及びません。また経済は生き物であり、日銀はその時々の経済状況に応じた金融政策を採る必要があり、2~3年先までの政策を縛るなどありえないからです。この発言を聞いたら次何かあるなと感じるのが普通です。これは利上げ予想を封じ込めるためであることは明白でした。一方日本の金利を取り巻く環境を見渡せば、物価は3%を超えるのは確実な状況でしたし、為替は1ドル150円に迫るような勢いでした。これで何もしないでいられるはずがありません。それに黒田総裁の日銀総裁就任当初のやり方をみれば、サプライズ的な決定をしています。そこから考えるとエコノミストの予想が利上げは当面ないというところに収斂したときが黒田総裁が動く時と予想出来ました。人が重要な決断をするときの性癖は変えられないもので、今回の利上げは黒田総裁の性癖がそのまま出たものと言えます。
今後については長期国債の買い入れ額をこれまでの月間約7兆円から9兆円程度に増やすとしていますので、金利上昇に伴って国債の売りが膨らむと見ているようです。そうなると日銀保有国債残高(12月20日現在557兆円)は更に膨らみそうです。政府は来年2023年度の予算総額を114兆円と決定し、歳入のうち国債は約35兆円となっていますので、国債残高は確実に1000兆円台を固めることになります。こうなると国債残高は増える一方であり、今後金利の上昇に伴って利払い費が大きく膨らむことになります。2022年度の予算では国債の償還や利払いに充てる国債費が約24兆円に達しており、予算全体107兆円の約22%を占めています。今後も償還費と利払い費の増加は確実であり、政策遂行に使える予算が少なくなってしまいます。
12月11日、自民党の荻生田政調会長は台湾での講演で、防衛予算の確保にため「(国債の)償還ルールを見直して、償還費で(財源を)賄うことも検討に値する」と述べたということです。これはどう言うことかと言うと、現在新規に発行した期間10年の国債は60年間で償還することになっており、10年毎に6分の1は税金で償還し、残りは借換債を発行して借り換えていますが、この税金で償還する6分の1の金額(プラス金利)が国債費(24兆円)として予算の大きな割合(2022年度22%)になっており、60年を例えば100年に延長し10年毎に10の1ずつ税金で償還することに変えれば、年間の償還費が減少するので、その減少額を防衛予算に充てれば歳出額は膨らまないと言うものです。これは国債償還の繰り延べであり、国債は将来世代に負担をおわせることになるとして防衛費増額を国債で賄うことに反対する岸田首相はOKしないでしょう。またこれでは国債残高がどんどん膨らんでいき、いずれ爆発する風船を抱え込むようなものです。
今の1,000兆円を超える国債残高を抱え今後金利が上昇すれば、国債費の増加で予算編成が困難になるのは目に見えています。これを避けるには国債残高を減らすしかありません。そのために考えられる方法として日銀が保有国債を毎年一定額日銀券と相殺して償却することが考えられます。例えば日銀が保有する国債557兆円のうち今年30兆円を債権放棄します。これで日銀には30兆円の国債放棄損が発生しますので、日銀券(債務)30兆円が免除されたことにして30兆円の債務免除益を建てます(日銀券は債権者がいない擬制債務)。これで損益上チャラとなり、P/LおよびB/S上も将来に悪影響を及ぼすことはありません。日銀は利益に課税されているようなので、国債の放棄には国税との調整が必要となりますが、そこは同じ財務省配下であり、難しくないと思われます。これにより10年間では国債残高のうち300兆円が減少することになり、国債残高は今の水準で据え置かれることになります。1,000兆円を超えた国債はいずれ日銀のバランスシードを使いこのようにして消すしかなく、少しずつ消した方がショックが少なくて済みます。これは日銀の通貨政策の一環と考えることができ、真剣に検討する必要があると思われます。