蒲島知事の肥薩線復旧方針は川辺川ダム建設中止と同じ轍

12月30日の毎日新聞電子版に蒲島熊本県知事のインタビューが載っていました。テーマは2023年の課題ですが、2020年7月の九州豪雨で被災し、全線の約7割が不通になっているJR肥薩線については、施設の維持管理などと運行を切り離す上下分離方式を前提に協議を進めていくと述べています。

肥薩線の復旧についてJR九州は、2022年3月にあった1回目の検討会議で国土交通省が示した流失した鉄橋2本を国の治水工事と一体で再建する方策などに沿って試算すると復旧費の総額は約235億円となり、国が復旧費のうち159億円分を公共事業として行い鉄道軌道整備法に基づく補助制度なども最大限使うものと仮定すると、JR九州の負担は約25億円まで圧縮できるとする試算を提出しています。これを見るとJR九州は肥薩線復旧に前向きのように見えます。一方では会議後に取材に応じたJR九州の松下琢磨総合企画本部長は「国などの支援があっても私たちの負担は高額だ。利用や収支の持続可能性と合わせて今後議論すべきものだ」と強調したとなっていますので、最終的には復旧断念に追い込む道を用意しているようにも見えます。

被災前肥薩線は年間約9億円の赤字であり、この原因の大部分は乗客の少なさにありますから、上下分離方式で鉄道設備一式を国の資金で賄い、かつその後の鉄道設備維持費を県または沿線自治体で負担したとしても、運航は黒字になりません。上下分離にしたとしてもJR九州が運航を引き受けるためには、沿線自治体が運航の赤字を補填する約束をすることが条件となります。2022年10月1日福島県と新潟県の県境付近を走る奥只見鉄道が丁度肥薩線のような状況から11年ぶりに復旧しましたが、年間約3億円の鉄道設備維持費を福島県が負担し、JR東日本の運航赤字を周辺自治体が負担することになっています。これを肥薩線に適用すると年間鉄道設備維持費約5億円を熊本県が負担し、年間運航赤字約5億円を沿線自治体が負担する覚悟が必要となります。

肥薩線沿線は人口減少が著しく、今から30年もすれば今の4割の人口減少が見込まれます。かつ住民には老人が多くなりますので鉄道の利用はもっと減少します。かつ若者は車移動です。こう考えると鉄道の必要性は全くと言ってよい程ありません。それなのに肥薩線復旧に拘る蒲島知事と沿線自治体の首長の頭の中が理解できません。赤字を負担してでも肥薩線を復旧すべきかどうかにつき肥薩線沿線自治体で住民投票をすれば、たぶん復旧する必要はないという意見が多数を占めると思います。即ち肥薩線復旧に拘るのは肥薩線沿線の首長とその首長に迎合する蒲島知事だけだと思われます。

蒲島知事は2008年、治水のため建設計画が進められていた川辺川ダムを一部の自然保護派の意見を採り入れ、計画中止としました。これが2020年7月の球磨川大水害の原因の1つになっています。蒲島知事の判断には科学的および経済的知見の軽視が見られます。川辺川ダム計画では洪水が起きたときの被害に対する想像力が欠けていますし、肥薩線復旧問題でも復旧後沿線自治体を苦しめることになる財政負担への展望が欠けています。

今後蒲島知事が肥薩線復旧方針を進めるとすれば、川辺川ダム建設中止と同じ轍を踏むことになり、結局肥薩線沿線の多くの住民を苦しめることとなります。