ユニクロの内外年収格差是正はトヨタこそ必要

カジュアル衣料品店「ユニクロ」を展開するファーストリテイリング(以下ユニクロ)は1月11日、国内のグループ従業員の年収を最大で約4割上げると発表しました。この結果新入社員の初任給は現在の25万5千円から30万円に、入社1~2年目で就任する新人店長は、月収29万円から39万円になるということですから、従業員にとっては待遇の大幅な向上となります。私が注目するのは引上げ理由が海外の従業員との賃金(年収)格差を埋めるためとなっていることです。ユニクロは海外にも店舗を広げ、海外の売り上げが国内を上回っており、年収も海外の従業員の方が高い傾向になっていました。このため国内の年収水準を上げることで世界基準に合わせ、海外従業員の国内店舗への配置や国内従業員の海外店舗への配置を円滑に行える体制を作ることに狙いがあるようです。

最近新聞で寿司職人の収入は国内より海外の方が数倍高く、海外で働く寿司職人が増加していると言う記事を見ましたが、これは他の職種でも同じのようです。AMEBATIMESによれば、職種で見た給与差は営業で海外840万円・日本379万円、ITエンジニアで海外1,020万円・日本497万円、コンサルタントで海外1,040万円・日本480万円となっています。もちろんこれは誰でもという訳ではないでしょうが、日本の会社員の多くが海外の同等の実力を持つ会社員より年収が少なくなっていることは事実だと思われます。こうなると日本の会社で実力のある中堅社員が海外の待遇のよい会社に移って行くのは当然ということになります。現在物価が上がったことを原因とする賃上げが言われていますが、内外年収格差を埋める賃上げの必要性も高まっていると思われます。

私が内外年収格差を是正する必要があると思っているのはトヨタです。トヨタの豊田社長の2021年度の年収(報酬)は4億4,200万円となっています。トヨタの2021年度(2022年3月期)の業績は売上高31兆3,795億円、営業利益2兆9,956億円です。これだけの業績で社長の報酬(年収)が6億8,500万円というのは世界の水準では考えられません。最低10億円は超えます。日本でもソニー(2021年度業績;売上高9兆9,2157億円、営業利益1兆2,023億円)の吉田社長の報酬は2021年度で12億4,500万円であり、武田薬品(2021年度業績;売上高3兆1,978億円、営業利益5,092億円)のウェバー社長は18億7,400万円となっています。面白いのはトヨタのルロワ前取締役副社長の報酬が14億5,100万円と豊田社長の約3倍となっていることです。ルロワ氏は欧州トヨタの責任者のようですが、欧州トヨタの2021年度の販売台数は約100万台であり、トヨタ全販売数約951万台の約10%でしかありません。その責任者がトヨタの社長や他のトヨタ本体の役員の何倍もの報酬を貰うなど不条理と言えます。トヨタの場合、ルロア氏のような外国人役員は通常勤務する国の基準で報酬が支払われるということですので、米国や欧州子会社の役員は豊田社長や日本人役員の何倍もの報酬を貰っている人が多いと思われます。まるで明治大正時代のような卑屈な報酬制度です。これでは世界基準で見てもトップレベルの技術や販売ノウハウを持つトヨタの日本人役員や日本人社員は浮かばれません。今後トヨタから実力のある社員が韓国の現代自動車のような世界基準の報酬体系を敷く自動車メーカーに移る事例が増えると予想されます。現代自動車は日産でゴーン会長の片腕だったムニョス米国販売責任者を引き抜き国際販売責任者に据えてから米国、欧州、アジアで販売を伸ばし、2022年度には世界3位の販売台数(685万台)に躍進しています。世界基準の実績に応じた報酬体系を採る効果であり、実績が報酬に反映されないトヨタとの活力の違いは明確です。私はこのままトヨタが内外報報酬格差政策を採り続ければ、あと5年程度で現代自動車に世界販売で抜かれると予想します。トヨタが内外報酬格差政策を改めれば、日本の殆どのグローバル企業も改めます。これで国内企業による物価上昇による賃上げとグローバル企業による内外報酬格差を埋める賃上げが同時に起こることになりますが、内外報酬格差是正の賃上げの方が日本の構造的な賃上げに繋がります。