前田会長はNHK再編の布石を打った

NHKの前田会長は3年の任期を終え1月23日に退任するとのことです。前田会長についてはNHK内部からいくつかの怨嗟の告発がマスコミになされており、NHKの一部の職員から嫌われていることが分かります。これまでの会長の交代が何事もなく行われていたとの対照的です。これはそれだけ前田会長がNHKの一部の職員にとっては不利益となることをしたと言うことであり、NHK受信料を無理やり払わされる者にとっては有難い存在であったと言えると思われます。

前田会長のやったことは次の通りです

1.2023年10月から受信料を1割値下げする。

2.外部業者への受信契約締結および受信料徴収の委託を2024年3月で廃止する。

3.BS1とBSプレミアムを今年12月までに統一する。AMラジオを2025年度に1波削減する。

4.管理職昇任試験を導入し、管理職の割合は37%から25%に削減する。また地方局長には若手中堅を抜擢する。

5.中間持ち株会社を作り子会社5社を傘下に入れた。関連4団体をNHK財団に統合した。

6.これらにより事業規模をこれまでの7,000億円弱から2027年度には6,000億円弱にスリム化する。

いずれもNHK社内の激しい抵抗が予想されることであり、よくもできたなという印象です。前田会長は毎日命懸けでNHKに出勤していたと思われます。これらの計画がNHK社内のスタッフで作成できるはずがなく、前田会長がコンサル会社に35億円または49億円支払ったというNHK内部からのリーク情報はたぶん真実だと思われます。それくらい払わないとこの改革はできません。流石みずほファイナンシャルグループの社長を務めただけのことはあり、お金の使いどころを心得ています。

この改革から分かることは、前田会長はNHKを何とか残そうとしていることです。一部のNHK職員は、前田会長はNHKを潰そうとしていると考えているようですが、そんなことはありません。潰すのなら英国のBBCのように放送免許を返上し、ネット放送局になる道筋を作ります(英国では2028年3月でBBC受信料を廃止する予定。フランスでは公共放送受信料を2022年5月に廃止した)。これをせず何とかスリム化で乗り切る道筋を作ろうとしています。受信料値下げについても、前田会長は衛星放送受信料のみの値下げで乗り切ろうとしたようですが、自民党の総務委員会メンバーが地上放送受信料も併せて値下げするよう求めてて、値下げ額が大きくなったと言われています。また契約や徴収業務の外部委託を廃止した結果、受信料の減収に歯止めが掛からなくなることが心配されていますが、これと引き換えに前田会長は今年の4月から受信契約未締結者や受信料未払い者に受信料の倍額の罰金を課すことを総務省に認めさせており、これが実施されれば却って増収になる可能性があります。このように前田会長はNHKが収入を確保する手段も計画にしっかり入れ込んでいます。受信料を無理やり払わされている者からすれば、前田会長の姿勢にいら立ちを感じるところです。

前田会長は改革について大手コンサル数社を入れたようなので、コンサル会社の提案書には世界の公共放送の動向と共にNHKの将来の行く末についての洞察も書かれていると思われます。コンサル費用は受信料から支払われているので、提案書は是非受信契約者に公開して欲しいと思います。

これまでNHK会長と言えばお飾りであり、従来のやり方に倣い無事に3年間の任期を勤めあげればよいとされてきましたが、前田会長はこの陋習を打破し、NHK再編の道筋を付けました。この意味でNHK史上最高の仕事師会長であったと言えますし、前田氏をNHK会長に指名した安倍首相のヒット人事と言えます。為政者は人事で名を遺すことが出来る例と言えます。次のNHK会長は日銀出身の稲葉延男氏に決まったようですが、マスコミでは前田会長が自民党の言うことを聞かなかったため、自民党の言うことを聞く人に替えたと言われています。稲葉氏は日銀出身ながらリコーの取締役を10年務めていますので、民間企業の厳しさは十分ご存じのことと思います。自民党の期待を裏切って前田会長の敷いた改革路線を発展させて頂きたいと思います。

*前田会長のした改革の中では中間持ち株会社が肝です。これがNHK再編の中心となります。