流動負債で長期資産を買う日銀のデタラメ
日銀毎旬報告を見ると2023年1月20日現在の日銀保有国債は約576兆円になっています。1月10日現在が約565兆円ですから、10日間で約11兆円増えています。1月17日から始まった日銀政策決定会合の前には10年物国債金利が市場で0.545%まで上がり、日銀は2日連続で約10兆円近い買入を行ったと報道されていましたから、意外と少ない増加額です。17日、18日の政策決定会合では市場動向を無視し長期金利を0.5%に据え置きましたが、市場は0.5%以上の金利が適正と考えており、今後0.5%%以上の金利で取引されるのが常態化すると思われます。
これに対して日銀では国債購入原資が底をついています。1月20日現在日銀の国債保有額約576兆円に対して、これまで購入原資としてきた日銀当座預金は約510兆円となっています。差し引き約66兆円日銀当座預金が足りません。これは何を意味するかと言うと、もう日銀当座預金だけでは国債を買えなくなってきているということです。不足する約66兆円については政府預金などの日銀の他の資産を充てていることになりますが、これもそろそろ限界に来ています。
そこで日銀が採った政策が17日、18日の政策決定会合で決定した「共通担保資金供給オペの拡大」です。これは日銀が銀行に低利で融資し国債を買わせると言うものです。これまでこの政策は、1~2週間の期間で短期金利を下げるために使われていましたが、今回期間を10年間に延長しました。この意図は明らかで、10年物国債を日銀に代わって銀行に買わせて長期金利を0.5%以下に抑え込むことです。即ちこれまで日銀が担ってきた国債の買い入れによる長期金利の抑え込みを銀行にやらせようという訳です。銀行にとっては収益上長期金利は高い方が良い訳で、これは利益相反になります。
日銀がこんな無茶なことをするのは、日銀のバランスシートが既に破綻しているからです。
日銀のバランスシート上国債残高が500兆円を突破することが常態化(1年前の2022年1月20日の国債残高は約521兆円)しており、日銀保有国債は資産分類上流動資産ではなく長期資産または固定資産とするのが適切です。なのにこれを日銀当座預金という流動性負債で購入しているのです。長期資産または固定資産は自己資本または長期借入金で購入するというのが資金運用の鉄則です。この日銀のバランスシートは黒字倒産企業のそれに近いものとなっています。今もし銀行が日銀当座預金を100兆円引き出したいと言えば、日銀はこれを現金で銀行に返還できない状態です。日銀は日銀券を発行することが出来ますが、預金を返せないから日銀券を発行すると言うことは出来ません。これは銀行が顧客の預金を返せなくなって自行宛に融資するのと同じです。と言うわけで日銀のバランスシートは実質的に破綻していると言ってよいと思います。
この悪影響を全て引き受けるのが銀行です。なぜなら日銀保有国債は銀行が一時的に日銀に置いている日銀当座預金全てが購入原資となっており、日銀保有国債の殆どはこの担保となります。従って国債が償還されないリスクや含み損のリスクは全て銀行に帰属します。日本の国債残高は1,000兆円を突破しており、更に毎年30兆円を超える国債が発行されていますので、税金で償還することは不可能です。政府は、国債は将来世代に負担を負わせるものとして増税を推し進めていますが、将来も税金で国債を償還できないのは自明のことです。従って政府の主張(国債は税金で償還されるもの)によれば国債は最終的には償還不能ということになります。実際のところ国債は日銀のバランスシートで国債と日銀券が相殺され、償還されたことになる(抹消される)のですが、政府はこのことを認めていませんので、銀行としては国債が償還不能となることを前提にマネジメントする必要があります。