鴻海の関氏招聘は日産買収の布石か
2023年1月30日、鴻海精密工業は日本電産で社長兼最高経営責任者(CEO)を務めた関潤氏を電気自動車(EV)の最高戦略責任者(CSO)に任命すると発表しました。クルマづくりに精通し、EVの駆動用モジュールである電動アクスル事業にもたけた人材を経営に取り込むことで、EV事業を加速させる意図とされています。
関氏は日産自動車の専務副最高執行責任者を務めた後、日本電産の創業者である永守会長に請われて日本電産に転身し、2021年にCEOに就任しました。ところが、永守会長はわずか1年で関社長のCEO職を解き、COOに降格させました。その後関氏は日本電産が次の成長の柱に据えた電動アクスル事業赤字の経営責任を負わされる形で2022年9月COOを辞職し日本電産を退社しました。
私がこの報道に接して違和感を持ったのは、鴻海の創業者郭台銘氏は日本電産の永守会長に近い猛烈経営者であり、永守会長が首にした人をCSOという重要なポジションで雇ったことです。普通に考えれば、自分に似た経営者がダメと言う烙印を押した人は雇いません。確かに関氏は日産で製造現場が長く、これから鴻海が受託を狙う自動車(EV)製造のノウハウはありますし、米国や中国駐在も経験していることから米国や中国の自動車企業の幹部に知人がいると思われ営業には有益です。しかし永守会長が関氏を首にした理由は、日産の官僚的体質が抜けきらず日本電産の猛烈に働く文化に馴染めなかったという点にあります。鴻海の文化も日本電産に近いと思われ、同じことが危惧されます。この危惧を承知のうえで雇ったと言うことは、上記狙い以上の狙いがあるような気がしてなりません。この頃には日産とルノーのアライアンス見直し交渉が妥結に近づいていることが報道されていました。この報道によるとルノーは日産への出資割合43%のうち28%を信託し、ルノーと日産は15%で対等な出資関係となるとなっていました。信託した28%については、その後ルノーは徐々に売却すると言うことでした。この関係では支配関係が明確でなく、アライアンスの成果を出すのは難しいと考えられます。その場合ルノーは保有する株式全部を売却し、新たなアライアンス関係構築に動くと考えられます。その場合に鴻海がルノーの持つ日産株式43%全部を買い受け、更に市場から8%を取得し、日産を子会社化することを狙っている可能性があります。日産の時価総額は約2.2兆円(2023年2月17日現在)であり、約1.1兆円あれば過半数の株式を取得できます。一方日産の純資産は約6兆円であり、1.1兆円で6兆円の資産を取得することになり、計算上もお得です。こうして経営権を取得した日産に関氏を社長として送り込めば、経営リスクは少なくなります。鴻海支配下の日産は自社ブランドの自動車の製造販売とEVの受託生産を行うことになります。日産は今でも約10兆円の売上があり、これにEVの受託生産が乗っかれば20、30兆円の売上に伸ばすことも可能です。こういうわけで鴻海の関氏招聘は将来の日産買収の布石である可能性がありあます。