日銀審議委員に銀行頭取経験者を入れるべき

もうすぐ日銀の新総裁に植田和男元東大経済学部教授が就任することが国会で承認されます。やっと10年に及ぶ黒田総裁時代に幕が下ります。黒田総裁は威勢よく2年で物価上昇率2%を達成すると宣言し、異次元の金融緩和を行いましたが、実現しませんでした。現在の2%を超える物価高はコロナやロシアのウクライナ侵攻よる世界的な食糧、原材料高、サプライチェーン網混乱などによるものであり、黒田総裁の金融政策が効を奏したものではありません。黒田総裁の10年に及ぶ金融緩和政策で日本経済の足腰は弱体化しており、今後のインフレ下において経済が腰砕けになる懸念があります。例えば融資金利が0%台だったことで、本来なら整理されていた企業が多数生き残っていますが、これが今後整理されますし、物価高で売上が急激に伸びる中で上昇する金利下で借入金マネジメントができず、破綻する企業が増えることが予想されます。要するにこの間多くの企業がぬるま湯につかり、厳しい状況を経験していないため、経営力が伸びていないのです。

私は安倍・黒田コンビで金融緩和に踏み出したとき、このまま厳しい状態が続いた方が日本経済にとってよいのではないかと考えていました。人間厳しい状況に置かれたときに伸びています。麦では芽が出て5㎝程度の長さになったときにわざと踏んで試練を与えて強い麦に育てます。金融緩和策はこれと真逆の政策で、確かに株価高や不動産高には繋がりますが、製造業の強化にはあまり役立たないように思われます。実際製造業はこの10年強くなったとは思われず、韓国には差を広げられたばかりでなく台湾にも抜かれました。日本の財政を再建するためにはGDPを倍増することが必要ですが、そのためには輸出を3倍に増やすしか方法はありません。そうなると製造業の強化が不可欠であり、黒田総裁の金融緩和策にはこの視点が欠けていたように思われます(黒田総裁の言い分としては、この部分は政府の経済政策の領域であると言うことになるかも知れません)。

黒田総裁は財務省時代から新貨幣論的な金融緩和論者だったようなので、総裁になったらこれを実行するのは当然であり、最初の任期5年間はあれでよかったと思われます。しかし5年経過時でも効果が出ておらず、またその後効果が出ることは期待できなかったことから、次の任期において政策の修正があってしかるべきでした。それは黒田総裁本人からは期待できず、その他の政策審議員から出てくる必要があったと思われます。しかしその他の政策審議委員がそのような提案をした様子は見られません。その他の政策審議委員がしたことと言えば黒田総裁の政策を追認しただけだったように思われます。日銀政策委員会のイメージはメダカの学校で、黒田先生と8匹のメダカが教室で学んでいる光景が浮かびます。こうなるのは政策審議委員の選抜に問題があるからです。政策審議委員のうち総裁、副総裁は国民からの注目度が高いため、厳しい選抜基準が設定されているようですが、他の6名は政府要人の推薦で決まるように見受けられます。要するに政府要人が良く知っている人を推薦し案外簡単に決まっているようです。例えば安倍政権時代に政井貴子氏が政策審議委員に任命されましたが、政井氏は実践大学卒で前職が新生銀行執行役員であり、誰が見ても日銀審議委員になるようなキャリアではありませんでした。政井氏が政策審議委員になれたのは、政井氏が法政大学大学院を卒業(これもキャリア的に疑問)しており、当時の菅官房長官の同窓であったことから、同窓の好で菅官房長官が押したからとしか考えられません。菅官房長官は自分に尽くした官僚を人事で厚遇することで有名であり、気に入った人を政権で重用しました。これが良い方に出たのが成長戦略会議の委員にデービット・アトキンソン氏を任命したことであり、悪い方にでたのが同会議に三浦瑠璃氏を任命したことです。このように日銀政策審議委員は選抜のフィルターが粗く、任命された方もキャリアップに生かす良い機会と言う考えが強く、一個人として金融政策の決定に身命を賭すと言う覚悟はないと思われます。そのためメダカの学校状態になり、機能しない(いてもあまり意味がない)のではないでしょうか。

植田新総裁は政策審議委員だった2000年の日銀政策委員会で、速水総裁が提案した0金利政策解除方針に1人反対したと伝わっており、政策審議委員のあるべき姿を実践しています。植田総裁下の政策審議委員は植田審議委員のような人を集める必要があります。そうだとすれば上司に仕えた経験しかない人はダメで、組織や団体のトップを務めた人が望ましいことになります。そうなると金融市場にも詳しい点で銀行トップ経験者が一番望ましいことになります。そこで政策審議委員のうち3名を銀行トップ経験者(都銀、地銀、信用金庫)とすることが考えられます。政策審議委員は9名いますから、これでも6名は今まで通りであり、政策決定はそう変わりません。ただし政策審議委員が意見を言い易くなる効果があります。米国FRBの政策委員会では7名の理事の他5名の連邦準備銀行総裁が委員として投票権をもっており、これに近い形となります。日本も日銀政策委員会の形骸化にメスを入れるときです。