黒田総裁で日銀は経営破綻状態

3月10日国会で日銀の植田新総裁、氷見野・内田副総裁の就任が承認されました。同日黒田総裁最後の日銀金融政策決定会合が開催され、金融政策の現状維持が決定されました。黒田総裁は過去10年の大規模な金融緩和について、2%の物価安定目標を実現できなかったことは残念としながらも、日本経済の潜在的な力が十分発揮されたという意味で「成功だった」と振り返ったということです。「日本経済の潜在的な力が十分発揮されたと言う意味で」の意味が良く分かりませんが、黒田総裁としては「成功だった」と言うしかなかったと思われます。そうでないと10年間の自分の人生が不毛だったことになります。

私は黒田総裁の評価としては不毛な10年間だったと思います。これは安倍首相についても言ってきたことであり、安倍・黒田コンビの評価が同じになることは当然です。このコンビを一言でいうと「単純」です。安倍首相はアベノミクスと言うばかりで、やったことは黒田総裁に異次元の金融緩和をやらせただけです。そして黒田総裁は異次元の金融緩和を10年間続けただけです。その結果日本は金融緩和漬け経済となり、経済の改革が進みませんでした。そのためGDPは10年前とほとんど変わっていません(約530兆円前後)。一方で消費税は5%引上げられ、社会保険料などを中心に公的負担は引き上げられましたから、国民の生活はこの間苦しくなっています。そして昨年来の物価高騰がこれに輪を掛けています。こんな中で黒田総裁から10年間の金融政策は「成功だった」と言われると腹立たしくなるのは私だけでしょうか。

黒田総裁がやったことで確実に言えることは、日銀を経営破綻状態にしたことです。日銀は日銀券を発行できるし、資産は国債などしっかりしたものだから経営破綻するなどあり得ないと思っている人が大部分だと思いますが、実は経営破綻します。それは資金繰りが成り立たなくなった場合です。日銀の資金繰りは公開されていませんが、日銀のバランスシートを見れば大方分かります。2月28日の日銀営業毎旬報告のバランスシートを見ると、国債が約588兆円で、日銀当座預金約524兆円となっており、日銀当座預金が64兆円少なくなっています。日銀当座預金は日銀が銀行などから国債を買入れた代金を国債を売った銀行などの口座に入金したもの(引き出されるので日銀にとっては負債)です。昨年6月頃までは国債残高と日銀当座預金残高がほぼ等しく、日銀が銀行などから購入した国債代金はほぼ各銀行などの日銀当座預金口座に据え置かれていました。従って日銀は据え置かれた日銀当座預金の運用として国債を購入している理屈でした。しかし昨年6月以降日銀当座預金が国債残高を大きく下回るようになっており、この理屈が成り立たなくなっています。日銀当座預金が減少した原因は日銀の銀行などへの貸付金が返済された(約30兆円。日銀当座預金から引き落とされるから日銀当座預金が減る)こともあるのですが、それ以上に日銀当座預金が減少しているということは、銀行などが日銀当座預金を引き出しているからです。日銀当座預金は国債に変わっており、日銀が日銀当座預金を銀行に返還するには国債を売却して現金に代える必要がありますが、国債を売却すれば金利が上昇することからそれは出来ません。今は外資系ファンドが国債を空売りして金利を上げようとしており、日銀がこの国債を購入している状況ですから尚更です。こんな中で銀行の都合で日銀当座預金の引き出しが増えたら、日銀はこれに答えられない、即ち資金繰り破綻の状態となります。実際は銀行と交渉して引き出し時期をずらしてもらうことになりますが、こんな状態になっているということです。これは借入企業が借入金を期日に返済できず借入銀行に返済猶予を交渉するのと同じ状態です。

日銀は、日銀当座預金は国債と表裏一体となった資金で、日銀が銀行などから国債を購入した資金は日銀当座預金と国債の間で循環する(償還で日銀の国債が減少すると、その償還資金は銀行が借換国債を購入して日銀当座預金から引き落とされるから日銀当座預金が減る。日銀当座預金が減るのはこの場合のみ。即ち日銀当座預金は国債専用資金。)と想定しているようです。これは銀行が国債を購入する場合、その原資は信用創造である預金勘定(日銀の発行銀行券勘定と同じようなもの)で生み出され、返済が必要ない(債権者がいない)コスト0の資金であることから、日銀当座預金に0.1%の金利を付ければそのまま置いておく、即ち実質国債専用資金であるという考え方だと思われます。今まではそうなっていたようですが、これは法定されているわけではありません。実際昨年6月以降日銀当座預金が目に見えて減少しており、変化が見られます。これは国債残高が1,000兆円を超え、デフォルトへの警戒も必要となっているためだと考えられます。そこまでいかなくても日銀に売却した国債代金はそのまま国債投資に回す(国債で循環させる)わけではないという銀行などの意思表示のように思われます。これが当たっているとすれば今後は日銀当座預金は適正額まで減ることが予想され、日銀は早々国債かETFを減らす政策に転換すると思われます(ETFが一番問題)。そうしないと日銀は銀行に頭を下げて日銀当座預金の引き出しを待ってもらう惨めな状態(本当の破綻状態)になります。