朝課外廃止は熊本県教委の低学力化の表れ

3月8日、白石伸一熊本県教育長は県議会で県立高校の朝課外を今年4月から全ての学校で廃止する表明したということです。理由は、新学習指導要領が重視する生徒の主体的な学びを促し、教員や保護者の負担を軽減するためとしています。

朝課外は、塾や予備校がない地方の高校生の学力向上策として主に九州で広まり、熊本県内では数十年前から普通科高校を中心に実施されてきました。朝課外は大学合格者を増やすために考え出されたものであり、大学進学意欲の強い生徒向けでしたが、同調圧力からほぼ全員が受講するようになり、授業の延長化したようです。これに対してやる気の無い生徒や朝そんな生徒のために早起きしなければならない保護者からは止めて欲しいという声があったようです。しかしこれはあくまで自由参加であることを徹底すればよいことであり、今回廃止になった本質的原因でないことは明らかです。本質的原因は朝課外が教師の負担となっていたことにあります。確かに教師の負担は増大しており、仕事改革が必要となっているのは事実だと思われます。そのためクラブ活動の指導を外部に委ねることも行われて来ていますから、その一環として目を付けられたのが今回の朝課外の廃止だと思われます。

私は朝課外の廃止そのものには反対しませんが、そのためには朝課外の廃止に伴う生徒の学力低下をカバーする方策を準備する必要があると思います。教師の負担の軽減にはなったがその分生徒の学力が低下し進学状況が悪化したでは困ります。何故進学状況の悪化が困るかと言うと、どこの大学を卒業したかということ(学歴)が就職や収入を左右し、人生を左右するからです。私も熊本出身ですがこのことを東京の会社に就職して気が付きました。私が就職したのは売上高1兆円を超える大企業でしたが、幹部は早慶(以上)卒が大部分であり、地方の大学卒は数も少なく課長がせいぜいでした。というより地方の大学から採用する必要は殆どありませんでした。その後金融業界に転じましたがこの業界ではこの傾向がもっと顕著で早慶卒でも私立中高一貫校卒業者が幅を利かしていました。中学から選抜された連中で、学習量が多く知識の引き出しが豊富で振る舞いも洗練されていました。彼らと会って私立中高一貫校の凄さを知りました。その後有名私立中高一貫校出身者に会っていくと、人生はほぼ中学進学時に決まるんだなと思いました。その認識は今でも変わりません。しかし私立中高一貫校に行くためには年間100万円くらいの費用がかかり、高収入家庭でないと難しいのは事実であり、大都市と比べて収入が少ない地方では私立中高一貫校の数も少なく、あってもレベルは高くありません。そのため地方では各県に名門進学高校があり、そこに県内の優秀な生徒が集まるようになっています。熊本で言えば熊本高校です。熊本高校はこれまで熊本出身の東大合格者の殆どを輩出し、県内の学力優秀者の受け皿となってきました。しかし昨年の進学実績を見ると変調が見られます。熊本高校の今年の難関大学への進学実績を見ると東大18人、京大10人、一橋6人、東工大2名、早大22人、慶大6人(以上6大学が上中下の上クラス)となっています。前年が東大16人、京大20人、一橋6人、東工大4人、早大23人、慶大14人ですから、京大で10人、慶大で8人減らしています。それ以上に目につくのが医学部進学者の減少です。昨年が78人に対し今年は48人と30人減少しています(これは普通に戻っただけかも)。この中で熊大医学が前年35人に対して今年29人、九大医学部が昨年4人に対して今年0人です。また九大全学部の合格者は昨年65人から今年は33人へと半減しています。濟々黌が48人ですから異常な減り方です。九大は全国ランクで言えば中ランクであり、入試問題は高校の授業レベルです。従ってしっかりした授業が行われ、熊本高校に合格できた生徒なら全員合格できます。入学後学習意欲を無くす生徒もいるでしょうからそこまでいかなくとも、九州各県トップ校並みの最低50人は合格しないといけません。これが33人まで落ちたと言うことは、生徒の学習意欲が低下したか教師の教える技術が低下しているかどちらか(或いはどちらも)です。熊本の殆どの高校で昨年の進学実績が悪化しており、この問題は熊本県全体の問題だと思われます。多分今年の進学実績は更に悪化しているはずです。

この中での朝課外の廃止です。この流れで考えると高校教師の教える意欲の低下が疑われます。朝課外廃止の理由に新学習指導要領が重視する「生徒の主体的学び」を持ち出していますが、これは以前失敗だったと言われる「ゆとり教育」に類するスローガンです。と言うのは、このスローガンは公立高校に通う約2割の意欲ある生徒には有効ですが、残り8割の普通の生徒にはマイナスの効果しかありません。「生徒の主体的学び」に任せておけばよいのは私立中高一貫校に進学するような生徒です。公立高校でこれをやったら学力崩壊を招きます。またこれは学力問題を全面的に生徒の責任にするものであり、教師の責任回避策でもあります。実際問題として「生徒の主体的学び」に対して今の教師に何が出来ると言うのでしょうか。今の教師は主体的学びの姿勢がなかったから教師になっているのであり、こんな教師が生徒に主体的学びを指導できるわけがありません。このように熊本県教委が持ち出している朝課外廃止の理由は屁理屈であり、熊本県教委メンバーの低学力化が進み、子供の低学力に問題を感じなくなっているように思われます。

私立中高一貫校が具体的受験教育を強化している中で、熊本県教委が素材が劣る公立高校でこんな低学力化政策を進めたら、熊本の子供の学力は現在の全国30位台から更に低下します。子供の学力は所得に比例しており、都民1人当たりの所得が575万円(2019年)と全国トップである東京都では小学生の2割は私立中高一貫校に進学し、公立高校は所得が低い家庭の子供が行く学校化しています。一方熊本の1人当たり県民所得は271万円(2019年度)で全国38位であり、ほぼ子供の学力と一致していると思われます。このように親の所得と子供の学力は相関関係にあり、所得を上げるには学力を上げるしかないことが分かります。熊本県教委の朝課外廃止は子供の学力を低下させる政策であり、その結果熊本県民の所得順位は益々下がることになります。負のスパイラルです。熊本県教委はこのことの認識が不足しているように感じます。熊本県教委は朝課外を廃止するなら、これに代わる具体的学力向上の仕組みを準備する必要があります。