行政文書漏洩官僚、「みなし公務員」じゃないから逮捕しない?

総務省の行政文書を巡って高市経済安全保障大臣が辞める、辞めないの話になっています。

多分多くの国民は、どういう内容を巡ってかについては関心がなく、結局高市大臣は辞めるの、辞めないのが関心の全てだと思います。結論的には辞めることにはなりません。

ことの発端は3月3日の参議院予算員会で立憲民主党小西洋之議員が放送法の解釈変更に関わる総務省の内部告発文書を示し、「特定の番組名を挙げ問題視するやり取りもある」と追及したことに始まります。この時点では、岸田首相も松本総務大臣も、文書に信ぴょう性がないととして相手にしませんでした。一方高市大臣は当時所管大臣だったことから、この文書は「ねつ造」だと発言し、小西議員の「事実なら辞職するか」との挑発に対して「結構ですよ」と応戦しました。この後告発文書に書かれていた当時の礒崎安倍首相補佐官がツイッターで「首相補佐官在任中に、政治的公平性の解釈について、総務省と意見交換したのは事実」「数回にわたって意見交換し、それらの経緯も踏まえ、高市総務大臣が適切に判断した」と認めたため、ついに政府も3月7日このような文書が存在することを認めました。一方高市大臣は自分の発言となっている部分は捏造であり、事実だと言うなら証明すべきだ少しトーンを変えています。

この告発文は文書作成者や作成日の記載がなく、総務省の放送法を所管する幹部間で回覧されたもので、総務省が管理する公文書と言えるのかどうかが問題となりました。この際に出てきたのが行政文書の概念でした。

「行政文書」とは、「行政機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られた記録をいう)であって、当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして、当該行政機関が保有しているものをいう(公文書管理法第2条第2項本文)」となっており、告発文は定義に合致しており、行政文書となるようです。

小西議員が問題にした放送法解釈変更の問題は2014~15年頃の出来事であり、現在は問題になっていないことからどうでもよく、行政文書を国会議員に渡したことの方が問題となります。公務員は公務員法上守秘義務や職務に関して政治的中立義務を負っており、行政文書を小西議員に渡した行為は公務員法違反に当たると考えられます。もしこれが罰せられないのなら行政文書はこれからどんどん流出します。

これに類する問題として2017年に加計学園獣医学部新設に安倍首相の関与があったのでないかが問題となった際に、関与を伺わせる文書が存在すると文部科学省の職員が告発し、これが問題となりました。当時の義家弘介文部科学副大臣は「一般論として、非公知の行政運営上のプロセスを上司の許可なく外部に流出させることは、国家公務員法違反になる可能性がある」と述べましたが、処罰されることはありませんでした。こちらは行政文書を流出させたわけではないので、処罰は難しかったかも知れません。しかし今回は約80ページに及ぶ行政文書であり、問題の重さが違います。それにこの文書にアプローチできる職員は限られており、流出者を特定するのも難しくないことから、東京地検特捜部が捜査に着手して欲しいものです。検察は2010年に大阪地検特捜部で証拠改竄事件が起きて以来官僚の摘発には慎重となり、その代わりとして民間人の摘発を活発化しています。代表例が2018年の日産会長ゴーン逮捕であり、2022年の東京オリンピック組織委員会理事高橋治之氏逮捕です。高橋氏逮捕の容疑は東京オリンピックを巡る収賄ですが、これには公務員という身分が必要です。そこで特捜部は、高橋氏は東京オリンピック組織委員会理事として「みなし公務員」であり、贈収賄罪に必要な公務員の身分があった解釈しました。高橋氏は非常勤の理事で数カ月に1回の理事会に出席し報告を受けるだけであり、具体的職務権限はありませんでしたから、この解釈には無理があります。もう最初から高橋氏逮捕に狙いを定めており、「みなし公務員」は方便としか思えません。今回行政文書を流出させたのは総務官僚であり、正真正銘の国家公務員ですから、「みなし公務員」のような方便を使う必要はありません。それとも「みなし公務員」じゃないから逮捕しないのでしょうか。