日銀のバランスシートはシリコンバレーバンク状態

3月10日米国のシリコンバレーバンク(SVB)が破産し、世界の金融システムの動揺が始まりました。SVBは総資産約28兆円(2022年末)であり、米国の場合預金は約2,500万円までしか保護されないルールですので、SVBに預金している企業の連鎖倒産が心配されましたが、米国預金保険公社と米国連邦準備制度理事会は預金全額を保護すると表明し、不安を鎮静化しました。しかし12日にはシグネチャー・バンクが破産し、銀行の信用不安が再燃しました。これが信用不安が燻っていたスイス大手銀行クレディスイス(CS)に波及し、15日にはCSの株価が暴落します。CSは総資産約76兆円(2022年末)であり、CSが破産するとリーマン級の経済ショックが起きると言われていますので、スイス中央銀行が資金支援を表明し、破産危機の沈静化を図りました(19日UBSの救済合併が決定)。CSの株価暴落を受け日本でも銀行を始めとする金融株が軒並み20%近く下落しています。日本では日銀総裁が交代することもあり銀行株が上昇していただけに冷水を掛けられた状態です。

この金融危機の嚆矢となったSVBは、2023年1月に発表した2022年第4四半期決算の中で、株主資本115億ドルに対し、第3四半期に満期保有目的有価証券の評価損が160億ドルに達しており、債務超過の状態にありました。評価損が大きくなったのは、数百億ドルに上る顧客の預金で、大きな金利リスクがある満期まで10年以上ある債権を大量購入していたためでした。期間の短い預金で期間の長い債券を購入すれば、資金繰りが苦しくなるのは自明なことです。これも金融当局によるストレステスト(健全性検査)が行われていれば防げたのでしょうが、SVBはストレステストの対象銀行ではなかった(急激に資産が増加した)ようです。

SVBの破産の原因となったバランスシートのミスマッチは、日銀にも見られます(日銀以外の銀行では見られないと思われます。それは日銀が検査しているからです)。3月10日の日銀毎旬営業報告を見ると国債が約593兆円となっていますが、その主な購入原資である当座預金は約521兆円であり、約72兆円当座預金が少なくなっています。これを発行銀行券(日銀券)で埋めていればよいのですが、日銀券約122兆円は貸付金約92兆円とETF約37兆円に使われていると考えることができます。そうなると政府預金やその他預金をかき集めて当座預金の不足を補っていることになります。当座預金は全額国債に変わっていますので、当座預金の引き出し(要請)があると国債を売却しないとこれに答えられませんが、国債を売却すると長期金利が上昇するためそれはできません。その結果日銀は5兆円程度の当座預金の引き出しがあればこれに答えられない、即ち資金繰りに窮している状態と言えます。ただし日銀当座預金は預金者である銀行など(484金融機関)にとってある意味遊んでいる資金であり、引き出し時期はどうにでもなることから、民間銀行のように取立騒ぎになることはないと思われます。

加えて日銀は昨年末に約8.8兆円の含み損を抱えていたと言われており、日銀の自己資本が3.4兆円であることを考えると債務超過状態と言えます。しかし引当金が約7.7兆円あり、これが国債の評価損に備えたものだとするとかろうじて債務超過を逃れられる状態です(3.4+7.7-8.8=2.3兆円の余裕がある)。それでも今後の金利上昇を考えると国債の評価損が膨らみ債務超過は避けられないと思われます。日銀ウォッチャー(日銀サークルのメンバー)は決して触れませんがこれが日銀の実体です。