日本電産の実体はNidec事業投資株式会社

日本電産の永守会長は昭和平成令和の時代を駆け抜けている風雲児と言えます。一代で売上高2兆円になる世界一のモーター企業を作りあげました。また遠慮会釈ない物言いでファンやアンチを作っています。会社が大きくなるにつれ世間受けする物言いに移行していく経営者が多い中で異質の経営者と言えます。

日本電産はこれまで順調に業績を伸ばしてきましたが、その背景には「すぐやる、必ずやる、出来るまでやる」の永守イズムがあると思われます。確かにこれを社内に浸透させられれば業績の良い会社になります。しかしそんな永守会長が失敗続きなのが後継社長選びです。他社から優秀な経営幹部を社長候補として招聘してはダメ出しをしています。最近は2人を社長に任命しましたが2年程度で首にしています。首にする理由が辛辣そのものであり、世のサラリーマンの顰蹙を買っています。そんな永守会長が昨年日産から招聘し社長CEOに任命した関氏をCOOに降格し、これを受けて関氏が辞職したことを受けて、次の社長は社内の生え抜きを任命すると表明しました。そしてこの3月に社内から5名を副社長に昇格させ、このうちの1名を来年4月に社長にすると言っています。このため指名委員会も設置していますので、これは間違いなく実現すると思われます。

私は日本電産の社長は生え抜きでないと務まらないとずっと前から思っていましたので、この一連の動きを見て収まるところに収まったという印象を持っていましたが、5人の副社長昇格者の顔ぶれを見て大きな違和感を持ちました。それは5人全員が他社(組織)からの転職者であり、純粋な生え抜きが1人もいなかったからです。それも3人が銀行出身者です(他は1名が元ソニー、1名が元東大副学長)。普通メーカーの場合、創業者と苦楽を共にした製造畑や開発畑の社員が何人かおり、彼らが後継者となるケースが多く見られます。日本電産も現在の小部社長はこれに当たります。日本電産は今年で創業50年になりますから新社長には日本電産創業後に新卒で入社した純粋な生え抜きがなるのが一番良い気がします。しかし発表された社長候補の5人の副社長の中に純粋な生え抜きは1人もいません。これはちょっと異常であり、何故なんだろうと考えてきました。そこで分かったことは、日本電産は永守会長が創業した会社が順調に大きくなった会社ではなく、M&Aによって多くの会社を買収して大きくなった会社であるということです。日本電産の資料を見るとこれまでM&Aで買収した会社は70社となっています(このうち海外40社)。多分永守会長が創業した会社の売上は日本電産全体の4分の1(5,000億円)くらいしかないのではないでしょうか。そうなると創業会社に新卒で入社した社員は5,000億円までの経営は経験済みですが、それ以上の経営は未経験ということになります。これでは今年売上高2兆円となる日本電産の経営は任せられません。そのため次の社長候補に純粋な生え抜き社員が入っていないものと思われます。

また日本電産の実体は創業会社の日本電産を母体とする事業投資会社であり、日本電産の経営者はメーカーの社長と言うよりは投資会社の社長としての資質が求められると言えるかも知れません。通常投資会社は投資した会社を改善・成長させた後IPOや売却してキャピタルゲインで利益を得ますが、日本電産の場合買収した会社の利益を取り込むことによって利益を得ています。また投資である以上これが株価に反映されることが必要であり、その結果永守社長が高株価を追求することになっています。日本電産の現在(3月末)の時価総額は約4兆円で最高値の約半値になっています。昨年の関社長解任の理由として永守会長は株価の下落も挙げていました。日本電産が事業投資会社であると言うことを考えれば当然ですが、たぶん関社長はこのことが分かっていなかったと思われます。

こういう風に考えれば日本電産の次の社長は投資管理に優れた銀行出身者からとなると考えられます。なお永守会長がこのような事業投資会社形態に行き着いたのは、ソフトバンググループ社外取締役として長い間孫社長と付き合ってきた影響が大きいと考えられます。また今後のNidecについては、買収した会社が中小企業であることから画期的な新商品開発に結び付くとは思えず、逆に今後買収した会社の整理が必要となる場面が来ると思われます。この結果Nidecはこれまでの日本電産のような高成長を維持するのは難しい感じがします。もちろん車載モーターが当たれば高成長も期待できますが、この分野は大手自動車メーカーグループ企業との競争となります。