肥薩線鉄道復旧なら歴史に残る愚の遺産

4月14日の熊本日日新聞によると、2020年7月豪雨で被災したJR肥薩線の運行再開に向け、熊本県が地元市町村に対し、復旧費と毎年の維持費の負担割合案を提示したということです。提示案では、交付税措置などを除く12市町村の復旧費の負担額を6億3,500万円と算出し、人吉市がこのうちの5割の3億1,750万円、八代市が3割の1億9,050万円、残りを10町村で790万~3,170万円負担となっているようです。一方、12市町村が負担する毎年の維持費は1億1,970万円と見込み、復旧費と同じ負担割合を当てはめると負担額は人吉市が5,980万円、八代市が3,590万円、残り10町村が140万~590万円となるとのことです。

よくもこんな作文を提示できたものです。復旧費については、JR九州が見込んだ概算復旧費は約235億円で、まず国が災害復旧として約160億円負担し、残りの約76億円のうちJR九州と国、地方が3分の1ずつ(約25億円)負担し、地方の負担分の約25億円を県と関係市町分で半分ずつ(約13億円)に分け、更に関係市町村の分の半分を県が負担する計画のようです。しかしこれには落とし穴があります。JR九州は肥薩線復旧費を負担すると約束していません。肥薩線復旧費はJR九州が算定したのだからJR九州は肥薩線復旧に賛成していると考えているのだと思いますが、それは有得ません。何故ならば、肥薩線は豪雨で不通になるまで年間約9億円の赤字となっており、JR九州のお荷物路線でした。不通になったことでJR九州は約9億円赤字が減少しているのです。こんな増益対策そんなにあるものではありません。従って復旧したらまた赤字確実な肥薩線復旧に無条件で賛成するはずがありません。JR九州が賛成するとすれば、JR九州は復旧費を全く負担せず、運行受託する場合には関係自治体が運行赤字を補填すると約束する場合だけです。即ち、肥薩線復旧でJR九州には全く負担がない場合だけです。JR九州は民間企業であり、赤字が予定される投資はできません。これが分かっていない熊本県の負担案は子供の作文レベルです。

それに毎年の維持費は約7億円4,000万円掛かると想定しているようですが、これはいつの時点の維持費でしょうか?鉄道設備の老朽化に伴い維持費は増加しますから、毎年の維持費は10年後1.5倍、20年後2倍、30年後3倍くらいに増えて行きます。さらに運行収支の赤字もこの割合で増加すると考えられます。洪水後沿線人口は相当減少していますし、今後10年で10%、20年で20%、30年で40%程度減少すると予想されます。そうなると30年後は年間維持費と運行赤字で約30億円必要となると考えるべきです。さらに毎年の維持費約7億4,000万円のうち5億4,000万円は補助金や地方交付税を充てることになっていますが、これは熊本県の希望に過ぎません。現在JR西日本やJR東日本で赤字路線の廃止を含めた見直しが進められていますが、肥薩線復旧でこれだけの支援をすれば、他の赤字路線も同様な措置が必要となります。そうすれば廃止される赤字路線はないことになります。従って肥薩線復旧後の維持費の大部分は関係自治体で負担するしかなく、将来にわたり関係自治体に大きな負担を強いることになります。沿線住民は年間3万円以上を肥薩線の維持費用として負担しなければならない状態となります。肥薩線復旧にそれだけのメリットがあるでしょうか?人の流れを見ても八代市⇔人吉市から熊本市⇔人吉市に変わっており、肥薩線は人の流れに合っていません。肥薩線沿線の人たちの交通の便を考えれば、JR九州が日田彦山線の復旧で提案したBRT方式(線路をバス専用道としてバスを運行する)がはるかに便利です。肥薩線なら1日せいぜい5往復ですが、BRTなら10往復は期待できます。それに日田彦山線BRTの場合JR九州が30年くらい運行の約束をしていると思います。これを考えればBRTへの転換の方が利便性と住民の負担の両面でメリットがあります。

蒲島知事は肥薩線復旧に拘りがあるようですが、もし蒲島知事がこのまま肥薩線復旧に突き進むとすれば、科学的思考力を欠いた川辺川ダム建設中止に続く2つ目の愚の遺産となりそうです。