関西では関電役員は起訴できない

関西電力(関電)元役員による役員報酬の補塡問題に関する2度目の検察審査会は、検察の不起訴処分を妥当とする議決を行ったという報道です。1度目の不起訴処分に対する検察審査会では起訴相当の議決をしており、何故ひっくり返ったのか審査の経緯が注目されます。

問題をおさらいすると、2020年3月、福井県の原発立地町の関係者から関電の役職員が金品を受領していた件を調査していた関電の第三者委員会は、東日本大震災後の経営不振で役員報酬の減額を実施したにもかかわらず当時の森詳介会長は減額された退任役員を嘱託として任用し嘱託報酬で過去の減額分を補うことを考え、当時の八木社長らと協議しただけで取締役会に諮らず、森氏を含む元役員計18人に2016年7月以降計約2億6,000万円が支払われていたと発表しました。関電を巡る一連の不祥事の中で悪質性が高い問題として、会社は森会長ら9人を会社法の特別背任容疑で告発しましたが、これを捜査した大阪地検特捜部は役員報酬の補塡のみを目的とした仕組みとは言い切れず、かつ関電の損害立証は困難として、2021年11月不起訴処分としました。これに対して市民団体が森元会長、八木元社長、岩根元社長の3人について検察審査に審査を申し立てた結果、2022年8月1日検察審査会は起訴相当の議決を行いました。その後大阪地検特捜部は3カ月の再捜査期限を1カ月延長し12月1日に再度不起訴処分としました。この不起訴処分の妥当性を審査するのが今回の検察審査会でした。

特別背任罪は取締役らが自身や第三者の利益を図る目的で職務に背き、会社に損害を与えた場合に成立します。判断の第1の焦点は18人に嘱託などとしての業務実態があったかどうかでした 起訴相当とした2022年8月の検察審査会議決では「嘱託などの業務内容はあやふやで、詳細が一切検討されていない。実態がほとんどない人もいた」として業務実態はなかったと判断しました。しかし、今回の検察審査会議決では「業務実態がなかったとは言えない」と判断したとのことです。その根拠となったのは大阪地検特捜部が再捜査で「嘱託業務の実態はあり、退任後の報酬は補塡ではない」と認定していることとなっています。第2の焦点は関電の損害ですが、最初の検察審査会議決では高額の報酬に見合う業務がなされたと言いがたいとし、「損害が生じたことは明白」としましが、今回の議決では、旧経営陣らを相手に起こした民事裁判で関電が「報酬の支払いによって損害が生じたという認識を示していない」ことを理由に損害の発生を否定しました。その結果、特別背任罪は成立しないから大阪地検特捜部の不起訴処分は妥当であると結論付けたようです。

この議決は、「関西では関電役員は起訴しない」と言う関西社会の暗黙のルールを反映していると思われます。1回目の起訴相当議決が関西らしくない結論だったのです。私は30才代に2年間東京の会社から大阪の会社に出向して関西社会に触れましたが、そこは東京生活が長い人からすると異文化社会でした。先ずお金を中心に回っており、公務員も平気で金品を受け取っていました。金品の授受は社会の潤滑油、文化となっており、金品が無ければ動かない社会と言えました。だから関電の役職員が原発立地町の関係者から金品を受領した件も、本人らにとっては「どこが悪いのか。儀礼やないか」という気持ちだったと思われます。こんな社会の中心に位置する関電は、大阪のこのような文化を体現する企業であり、削減された役員報酬を嘱託報酬で補填することは当たり前であり、被告3人には何の罪の意識も無かったと思われます。関電は関西財界の中心的存在であり、関西政界・官界とも強いつながりがあります。大阪府警からも多数の退職者を受け入れていると思われ、警察にとっては良き支援者です。従って大阪府警と同じ司法組織に属する大阪地検特捜部がこの関係を無視することは有得ず、関電役員不起訴は当初から既定路線だったと思われます。そして大阪地検特捜部は、検察審査会も当然関西のこのようなルールを尊重し、せいぜい不起訴不当の議決に留まると想定していたと思われます。それが起訴相当と言う空気を読まない議決を行ったことから、大阪地検特捜部ばかりでなく関西政財界の驚きは大きかったと思われます。1度目の検察審査会議決が起訴相当議決となったのは、この検察審査会にたまたま空気を読まないメンバーが集まったためです。メンバーと言うのは11人の検察審査員(審査員)と1人の審査補助員です。審査補助員は弁護士会の推薦で弁護士が指名されます。1回目の検察審査会に対して大阪弁護士会は検察審査会の制度に乗っ取り中立的な弁護士を推薦したものと思われます。検察審査会の審査員は市民から指名される素人ですから、審査補助員に教え導かれることになります。即ち審査補助員を誰にするかで結論が変わってくるのです。第1回目の検察審査会の起訴相当議決は審査補助員選びで決まったとも言えます。そこで2回目の検察審査会においては、検察補助員の選定で大阪地検と大阪弁護士会で綿密な協議が行われたことが想定されます。大阪地検特捜部は再捜査期間を1カ月延長していますが、これは大阪弁護士会との調整のためだった可能性があります。大阪弁護士会にとっても、関電はお得意先であること、訴えられた3人の弁護団は大阪弁護士会の有力者であること、大阪地検に恥をかかせるのは得策でないことなどを考えて、審査補助員に検察寄りの弁護士を推薦したと考えられます。これで第2回目の検察審査会の結論はほぼ決まったと言えますが、さらに審査員にも関電と検察の理解者を充てたか、或いは指名後に特定の審査員に働きかけた可能性があります。1人声が大きい審査員を抱き込めば審査補助員と連動して思い通りの結論に導けます。

今回の検察審査会議決は大阪地検特捜部の不起訴の理由を丸飲みしており、このように考えないと出てこない結論です。大阪地検特捜部は安倍政権時の森友事件において近畿財務局の議事録改ざんを不起訴処分としており、政治取引はお手の物です。その後も広島の選挙被買収者100人を不起訴にしたり、黒川東京高検検事長の常習賭博を不起訴にしたりと検察は公訴権を恣意的に運用しています。そのため検察審査会は国民を守る司法の拠り所となっていますが、今回の検察審査会の議決には、弁護士会が検察補助員の推薦で検察に協力すれば、検察審査会を骨抜きにできることを示しています。

今回の検察審査会の不起訴妥当議決のポイントは、弁護士会(の幹部)が関電役員・大阪地検側に付いたことでした。弁護士にとって財界や検察から得られる利益の方が大きいことから来る当然の結論と言えます。関西らしい結論と言えまます。