ラピダスの戦略は止められなくすること
2022年8月に設立されて1年も経たないラピダスが工場を作るために国に2兆円規模の資金支援を要請するとの報道です。まだ会社としての実体も整わない会社の威勢の良さに驚きを禁じえません。ラピダスの出資先はキオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、NEC、NTTおよび三菱UFJ銀行の計8社であり、外形上は純粋な民間企業です。しかし出資額を見ると三菱UFJ銀行(3億円)以外の7社は10億円で並んであり、お付き合い出資であることが分かります。この形は経済産業省が音頭をとって半導体関連の大手企業に出資を募り、多くが断った中でこの8社が断れなかったものと思われます。従って出資会社の中に経営に責任を持つ会社は無く、資金面は経済産業省が責任を持ついう前提が見えてきます。それが分かるとラピダスが簡単に2兆円の資金支援を国に要請できる理由が分かります。
2兆円の資金支援要請記事に対するヤフコメを見ると、ラピダスは失敗すると言う声が圧倒的です。応援する声は日本にも先端半導体を作れる会社が必要だから頑張って欲しいというものです。成功できる理由を上げたコメントは皆無です。ヤフコメの多数意見は正しいと思われます。それほど成功する理由を探す方が難しいです。2n半導体の製造技術はIBMの技術を借りるようですから、お金を突っ込めば製造できるようにはなると思われます。今はむしろIBMが半導体のファンドリー事業を売却したグローバリーファンドリーズからラピダスへの技術支援を契約違反として訴えられていることの方が心配です。この結論がでるまで工場建設には取り掛かれないことになります。この裁判にIBMが勝訴したとしてもラピダスの視界には大きな闇があります。それはラピダスから2n半導体を購入するユーザーが全く見えないと言うことです。世界で2n半導体を作れるのは台湾のTSMCと韓国のサムスン電子の2社と言われていますが、ユーザーは米国の企業と言われています。TSMCの大口ユーザーはアップルでありi-phoneに使われるようです。そのためTSMCは米国アリゾナ州に5兆円を掛けて工場を作っています。これに負けじとサムスン電子はテキサス州に同規模の工場を作っています。彼らが米国に工場を作るのは、2n半導体のユーザーが米国に集中しているからのようです。現在熊本にTSMCが工場を作っていますが20n程度の半導体を製造すると言われています。これは古い技術に属しますが、日本のユーザーにはこれで十分とのことで、日本には2nのユーザーは殆どいないようです。こんな中でラピダスが2n半導体を製造したとしても日本にはユーザーがおらず、米国のユーザーはTSMCとサムスン電子に抑えられている状況が予想されます。そうなるとユーザーを確保するまで相当時間が掛かることを覚悟する必要があります。2兆円は試作工場であり、量産工場には5兆円の資金が必要と言われており、採算に乗るまでには10年の期間と5兆円の運転資金が必要です。従ってラピダス成功のカギは資金が続くかどうかと言うことになります。この成功が見えないまま走り出すやり方は高速増殖炉や核燃料再処理工場と同じであり、突っ込んだ金額が大き過ぎてやり続けるしかない状態を作る戦略のように思えます。ここからもラピダスが民間企業ではなく国家プロジェクトである実体が見えてきます。そうなると事業の成功に責任を持つ人は誰もいないと言ってよく、ラピダスに入社する人は波乱万丈な人生を覚悟する必要があります。