熊本大学「半導体デバイス工学課程」の一般入試はピンボケ
熊本大学は2024年に情報融合学環と工学部半導体デバイス工学課程を新設することになり、募集要項を発表しました。この2つのうち半導体デバイス工学課程が注目されます。というのは、現在世界最大の半導体受託生産メーカーTSMCが熊本に工場を作っていますし、ソニーも新工場建設に向け約27万㎡の土地を取得しました。更には三菱電機も半導体工場の増設を検討していますし、TSMCの第二工場も熊本が有力になっています。こうなると半導体人材不足が明らかであり、熊本大学の半導体デバイス工学課程はこの問題の解決に役立ちます。そのため予算の獲得も順調で既に文部科学省から半導体研究のための『DXイノベーションラボラトリー』建設予算(約20億円)や内閣府の「地方大学・地方創生交付金」(テーマ:「半導体産業の強化及びユーザー産業を含めた新たな産業エコシステムの形成」)を獲得しています。今後は半導体産業の主管官庁である経産省からの予算獲得が期待できます。
半導体デバイス工学課程は今年学生の募集を始めるようですが、3年次編入試験(20人)と一般選抜試験(15人を入試で選抜、5人を推薦で選抜)に分かれているようです。この内一般入試の合否判定基準を見ると、多くの国立大学工学部と同じく大学入学共通テストの点数45%と大学個別学力検査の点数55%の割合で加味する方式です。国立大学は同じ試験科目でかつ同じような合否判定基準で入試を行うことから偏差値で序列化されています。これを偏差値カースト制度と言いますが、熊本大学工学部の偏差値は45~47.5となっており、カーストの真ん中より少し下の階層に属します。この結果これまでと同じ入試制度では半導体デバイス工学課程も偏差値45~47.5の学生が集まることになります。半導体デバイス工学課程がこれを大きく上回る学生を集めたいのなら入試制度を改める必要があります。半導体デバイス工学課程の大学個別学力検査は、数学、理科(物理・化学・生物の3教科から2科目選択)、英語の3教科4科目となっていますが、理科は半導体デバイスの性格上物理・化学の2科目に絞られると思われます(生物は不要)。また合格判定では大学入学共通テスト450点、大学個別学力検査550点の配点としていますが、これもおかしな考え方です。大学入学共通テストの結果に450点も配分しているため、大学個別学力検査で折角絞り込んだ見たい能力がぼける結果となっています。半導体デバイス工学課程に必要な能力が数学、理科、外国語の3教科4科目に絞り込めるのなら、大学入学共通テストで考慮すべき教科もこの3教科であり、大学入学共通テストの結果ではこの3教科の総合点で足切りを設定し、合否は大学個別学力検査1本で判断するのが良いと考えられます。大学入学共通テストの公民(配点50)や地理(配点50)は全く考慮する必要はないし、国語(配点100)も大学個別学力検査の3教科4科目で見れますから不要です(国語が出来ない人は大学個別学力検査の問題は解けない。またそんな問題にする)。大手半導体企業で開発を担うには偏差値60以上が必要であり、熊本大学でも試験科目を絞り込めば集めることは可能です。
広島サミット前に政府は半導体の世界的企業を集め日本への投資や日本の研究機関との共同研究を呼び掛け、いくつかの共同研究がまとまりましたが、その中でマイクロンテクノロジーは国内5大学(東北大学、東京工業大学、名古屋大学、広島大学、九州大学)と共同研究を行うと発表しました。その中には熊本大学は入っていません。熊本大学ではまだ半導体の教育も始まっていないことから当然ですが、大学の質として旧帝大を最低ラインに設定している印象があります(広島大学はマイクロンが広島に工場を持っているから入った)。熊本大学の半導体デバイス工学課程が評価を高めるには学生の質(学力)が重要であり、入試を工夫して旧帝大以上の能力を持つ学生を集める必要があります。
もう1つ優秀な学生を集める仕掛けがあります。それは半導体デバイス工学課程の学生全員に3年次から給付型奨学金を支給する制度を設けることです。問題になる財源はソニー、TSMC、三菱電機、東京エレクトロンなど熊本の進出している半導体関連企業から拠出して貰います。40名?(三年次編入20人、一般入学20名)に3年次から月10万円支給すると1学年年間4,800万円、学部3,4年次+修士課程1,2年次に支給すると4学年分で年間合計1億9,200万円、約2億円の拠出があれば足ります。これらの半導体関連企業で出せない金額ではありません。これで学生は勉強に集中できますし、この特権があれば入学する学生の偏差値がぐっと上がります。偏差値カースト制度を脱却し、質の高い学生を集めるには大学も知恵を働かせる必要があります。