日野・三菱ふそうVSいすゞの展望(国内編)
5月30日、日野自動車(日野)と三菱ふそうトラック・バス(三菱ふそう)が経営統合することが発表されました。日野の親会社であるトヨタ(50.1%出資)と三菱ふそうの親会社であるダイムラートラック(89.29%出資)が同じ割合で共同持ち株会社を作り、その下に日野と三菱ふそうがぶら下がることになるようです。
これを報道する紙面で「まさかの組み合わせ」という表現があるように、トラックメーカーにおける大地殻変動です。2019年12月にいすゞ自動車(いすゞ)がボルボからUDを買収すると発表したときは、長らく続いた国内トラックメーカー4社が3社に集約された「エポックメイキングな出来事」と言えましたが、まさかその後このような続編が用意されていると予想した人は少ないと思われます。実際今回の動きは、日野のエンジン認証不正が明らかにならなければ出てこなかったし、いすゞのUD買収、ボルボとの提携が誘発したように思われます。(三菱ふそうとUDが統合していればなかった?)
ここで統合後の日野・三菱ふそうVSいすゞ(UD)を展望してみたいと思います。この2つのグループの業績は次の通りです。(日野・いすゞは2023年3月期、三菱ふそうは2022年12月期)
会社 売上高 営業利益 当期利益 純資産
日野 1兆5,073億円 174億円 -1,176億円 1,955億円
三菱ふそう 6,993億円 171億円 160億円 2,438億円
いすゞ 3兆1,955億円 2,535億円 1,517億円 1兆5,102億円
これを見ると1強2弱の様相であり、日野と三菱ふそうがいすゞに対抗するには統合するしかなく、「まさかの組み合わせ」ではなかったことが分かります。むろん日野といすゞは同根(東京自動車工業から分かれた)であることから、両社の合併も検討されたと思われますが、両社が合併すると国内の普通トラック、小型トラックのシェアが7~8割となることから、独占禁止法が障害として立ちはだかります。この話を持ち出したのはダイムラートラックという報道もありますが、私はトヨタだと思います。トヨタは日野のエンジン認証不正を防げなかったことで、トヨタにはトラックメーカーのマネジメントは無理だと悟ったでしょうし、本業でも電気自動車という未知の世界が待ち受けています。豊田会長としては4月に就任した佐藤社長が電気自動車に専念できる環境にするためにも日野をトヨタから切り離す決心をしたものと思われます。
2022年1~12月の普通トラックシェアを見ると
日野 27.8%
三菱ふそう 18.8%
いすゞ 36.1%
UD 17.2%
となっています。これを見ると日野・三菱ふそう46.6%、いすゞ・UD53.3%でいすゞ優勢となりますが、この年は日野がエンジン認証不正により多くの車種が出荷できず大きくシェアを落としているため、異常値と言えます。エンジン認証不正が明らかとなるまでは日野が数ポイントいすゞが上回っていましたので、その当時に戻れば逆の数字になります。しかし今後は日野が正常化してもいすゞ・UDが日野・三菱ふそうを逆転し、引き離すことになると思われます。
その理由は、
- 日野は今回のエンジン認証不正で顧客に相当の損害を与えており、顧客の日野への評価が大きく下落していること。
- 今後日野はダイムラートラックのやり方を強制されることになり、日野の顧客がこれを嫌い離れると予想されること。
特に2が大きく、これは三菱ふそうを見れば明らかです。1990年くらいまでトラックに関していすゞ・日野・三菱ふそうはほぼ同じくらいの売上規模でしたが、いまではいすゞと日野が2:1、いすゞと三菱ふそうに至っては1:0.2の割合になっています。これを見ると三菱ふそうが大きく後退したことが分かります。1990年頃まで2・3トンクラスではいすゞエルフと三菱ふそうキャンターが激しい競争を繰り広げていましたが、今ではキャンターがすっかり勢いを失くし、日野のデュトロがいすゞエルフのライバルとなっています。三菱ふそうの凋落は普通トラックでも同じであり、ダイムラートラックのマネジメント手法が日本のトラック顧客に受け入れられていない(嫌われている)ことが伺えます。今後日野も同じようになると予想されます。
この結果10年後の国内市場のシェアは、普通トラックおよび小型トラックともいすゞ6:日野・三菱ふそう4くらいになると予想します。
今回の日野・三菱ふそうの経営統合により国内トラックメーカーが2社に集約されたことから、今後は価格競争がなくなり、いすゞおよび日野・三菱ふそうとも利益が出やすい構造になると予想されます(2社が物流インフラの公益企業化する)。その中で両社の優劣を決定付けるのはサービス網(ディーラー網)になると思われます。トラックは経済活動や生活の維持に不可欠のものであり、間断なく稼働することが求められることから、トラックメーカーはこれを保証する修理やメンテナンスサービスを提供することが求められます。この場合に心配されるのが整備工場のメカニックの確保です。乗用車の整備ならまだ身近でありなり手がなくなることは考えられませんが、トラックの整備は一般に目にすることがなく重労働、危険と言うイメージがあるため、なり手がなくなることが懸念されます。これを防ぐにはメカニックを中心としたディーラー従業員の待遇向上が必要になると思われます。メーカー2社体制により価格競争がなくなり利益が増える分は重点的にディーラー従業員の待遇改善に回す必要があると思われます。理想はディーラーの部長クラスで年収が1,000万円を超すことであり、ディーラーがある地方では地方銀行に次いで2番目に高収入な職業になることです。
国内のトラック市場は今後縮小することから、メーカー2社の本当の勝負は海外市場になります。海外では国内程いすゞ優勢とは言えず、今回の動きがいすゞとボルボの提携関係に進化をもたらすと思われます。いすゞとボルボは2020年10月戦略的提携に関する基本契約を締結していますが、この実体はいすゞのボルボに対する約2,430億円の出資と見ることが出来ます。この出資額に見合うだけの成果を海外市場でも実現することが求められてきます。