ビッグモーター事件は詐欺罪で立件される
中古車販売大手のビッグモーターが事故車の修理の際に、わざと車体に傷を付ける、タイヤに穴を空ける、不要な部品交換を行うなどして修理代金を膨らまし、保険金を請求していたことが問題になっています。会社側の発表によると、昨年11月から8,427件の保険金申請を調べた結果、15.1%の1,275件(4,995万円)で何らかの不適切な行為が見つかったということです。
この事件では不正を実行した同社の整備工が、工場長がタイヤに穴をあけるやり方を実演する映像を公開していますので、不正が整備工個人の意思に基づくものではなく、上司の指示に基づくものであることは間違いありません。現在新聞・テレビなどでは、ビッグモーターの社長や厳しいノルマ主義を取り上げて問題にしていますが、これはどう見ても刑法上の詐欺事件です。
詐欺罪は、刑法第246条に
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2..前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
と規定されており、詐欺罪が成立するためには、 ①欺罔行為(相手方を騙す行為)があったこと ②欺罔行為により相手方に錯誤があったこと③錯誤に基づく処分行為があったこと④財物・利益の移転があったこと、が必要です。本件の場合、①保険金を不正請求していますので保険会社を騙す行為があり、②保険会社はそれを正しい金額だと思い込み、③④請求された保険金額を支払っているので、詐欺罪が成立します。
問題は誰を立件するかだと思われます。車に傷を付けたり、タイヤをパンクさせたり、不要な部品を交換したのは整備工なので、普通なら整備工が詐欺の実行犯となります。また工場長が指示していたとしたら、工場長も実行犯と同列(間接正犯)に扱われると思われます。更に工場長に上司が指示していたとすれば、この上司も詐欺罪に問われると考えられます。問題は直接的な指示はしていないけれど、やっていることは薄々知っていた上司(担当役員や社長)を詐欺罪に問えるかです。本件の場合は、社長以下このような行為をやっていること認識していたか、薄々知っていた可能性があり、詐欺罪の間接正犯に問われる可能性があると思われます
ただし本件には別の展開がありえます。それは、本件不正請求を損保側が知っていながら黙認していたことが明らかになった場合です。この場合②③の要件が成立せず、その結果詐欺罪が成立しないことになります。損保には事故と修理代金のデータが蓄積しており、本件のような多数の不正請求に気付かない方がおかしいと考えられます。従って警察または検察が本件捜査に着手した場合、損保本体も捜査の対象になると思われます。損保が不正請求を認識し黙認していた場合、ビッグモーター側の詐欺罪は成立しませんが、損保は金融庁から保険業法違反として営業停止処分を課せられ、役員辞職などに発展する可能性があります。