ビッグモーター事件、損保が知らないわけがない

ビッグモーターが事故車の修理箇所をわざと増やして、保険金を不正請求していたことが問題になっています。報道によると売上ノルマを達成するために、事故車の車体を傷つけたりタイヤに穴をあけたり不要な部品を交換して修理代金を膨らませ、それを損保に請求し支払いを受けていたということです。昨年11月からの8,427件の保険金申請を調べた結果だけでも、15・1%の1,275件(4,995万円)に上っており、今後調査が進むに従って益々増えそうです(調査できないケースも多いと思われます)。本件が生じた原因について新聞・テレビの報道は、ビッグモーターの過酷なノルマ主義が原因との論調であり、それは間違いないと思われます。しかしこれには隠れた主役がいます。それは、形式上は被害者となる損害保険会社(損保)です。ビッグモーターは中古車販売大手であり、顧客は中古車購入の際に損害保険に加入することが多いことから、保険代理店としても大手となります。従って大手損保(東京海上日動、損保ジャパン、三井住友海上)としても有力代理店として親密な関係を維持してきたと思われます。事実今年3月までこの3社は社員をビッグモーターに出向させていたことが分かっています。今年2月には不正車検が発覚しており、損保3社は社員を出向させているのが報道されるとまずいと判断し出向を中止したと考えられます。(7月24日日経デジタル版によると損保ジャパンは2011年から累計37人も出向し、修理工場の担当部長を務めていた時期もあったとのこと。)

ビッグモーターの不正請求は相当長期間続いていると思われ、1件当たりの水増し保険金請求額は約4万円に上ると報道されており、3社がこれに疑いを持たないこと(社内で問題にならないこと)は考えられません。損保はリスクを分析し保険制度を設計していますから、車両事故データと保険金額の分析も詳細に行っていると思われます。それを見ればビッグモーターの保険金請求額の異常は分かるはずです(コンピュータが異常値として警告する)。この見方が正しければ損保ではビッグモーターで何らかの不正が行われていることに気付きながら、不正に目を瞑っていた可能性があります。それはビッグモーターが獲得する保険契約の保険料と不正請求額を比較すると、前者が大きかったためと考えられます。不正請求額は保険契約手数料の規定外のキックバックと位置付けられていた可能性があります。それに保険事故があると顧客の保険等級が下がり保険料が上がることによって不正請求額は穴埋めできます。

損保は最近東急グループとの保険契約でカルテルの事実が明らかになっており、その後仙台空港の運営会社との契約でもカルテルの疑いが浮上しています。現在他でもなかった調査中と言うことですが、損害保険業界の実体を知っていればカルテルが無い方が少ないと言えます。と言うのは大企業の損害保険契約には殆どの損害保険会社が参加し、その中で最大のシェアを持つ会社が幹事として会社との交渉を担当します。即ち損保契約は幹事に従うことがルールとなっています。幹事は大手3社が務めることが多くなりますので、3社の担当者は顔なじみで、お互いに幹事社の意向に従う習慣が出来上がります。この結果最初の提案条件についても打ち合わせを行うことが普通になります。従って大手3社はカルテルが常態化していると見るのが素直です。

こういう損保の不正体質がビッグモーター事件の背景にありますので、本件は氷山の一角かも知れません。損保業界の不正体質にメスを入れない限り損害保険を巡る不正は無くならないと思われます。