金融庁の検査が天下りの営業になっている

保険金不正請求事件を引き起こしたビッグモーター(BM)の先行きが見えてきました。今月中に返済期限が来る約90億円の借り換えについて銀行と協議した結果、全行が借り換えを拒否したとのことですから、あと6カ月以内にBMの社名は無くなると思われます。9月末で現預金約320億円あるということですが、これはせいぜい6カ月しか持ちません。今後は在庫の中古車をオークションで処分し借入金の返済に充てる一方不足分は兼重一族の全資産を担保に差し入れることを条件にメインバックが融資し、メインバックは取引先の中古車企業へBMを売却する道を探ることになります。これにより1年後にはBMの看板はなくなり、他社の看板になっていると思われます。

さてBMと共犯関係にあったと思われる損保ですが、2022年2月にBMの不正の疑いが浮上しサンプル調査して以降損保ジャパン以外は「あれからBMがこんなことを続けているとは知らなかった」で逃げられると思われます。今後の調査ではサンプル調査後も不正を黙認してきた損保ジャパンの悪質性が浮き彫りになり、損保ジャパンの処分が焦点となりそうです。

ここで問題となるのが損保ジャパンを調査し処分を下す金融庁が信頼できるのかどうかです。BMの問題は2021年秋頃には報道されており、2022年2月には取引損保でサンプリング調査をした結果複数の不正取引が判明しました。その後損保間でBMの取引を巡って対応が分かれ、BMはいち早く取引を再開した損保ジャパンに自賠責保険を集中しています。これらの経緯については損保ジャパンから金融庁に報告があったようですが、最近になって内容が虚偽であったとの報道がなされています。この報道は金融庁のリーク報道であり、金融庁が責任逃れを画策していることが伺えます。

私も以前損保ジャパンの幹部の方と話したことがありますが、金融庁のことをとても気にしていることが分かりました。「金融庁の検査受けたことがある?箸の上げ下げまであれこれ言うからね」と言っていましたから、金融庁はかっては厳しい検査をしていたものと思われます。ところがこれが最近相当変質しているように思われます。私がなぜそう思うかというと最近金融庁長官経験者が相次いで監督先である金融機関に天下っているからです。2017年には2004~2007年に長官を務めた五味廣文氏がSBIホールディング(住信SBIネット銀行、SBI証券を傘下に持つ)の社外取締役に就任し、2022年2月に新生銀行会長に就任しています。五味氏の場合には長官退任後10年経過していることがいい訳になるかも知れませんが、2018~2020年に長官を務めた遠藤俊英氏は長官退任4カ月後の2020年11月には富国生命顧問に、翌年1月には東京海上日動の顧問に、ついに今年6月にはソニーフィナンシャルグループ(傘下にソニー銀行、ソニー生命、ソニー損保を持つ)社長に就任しています。それまで金融庁長官経験者は監督先の金融機関には天下っておらず、これが金融庁職員が監督先の金融機関に天下ることの歯止めになっていたと考えられます。ところが2人の長官経験者が監督先に天下ったことからこの歯止めなくなり、職員の中で天下り競争が始まっていると思われます。こうなると検査は形骸化し、検査する職員は金融庁退職後呼んでもらえるよう検査に手心を加える、不正を目こぼしするようになります。即ち、検査が天下りの営業活動化するのです。このような金融庁の変質が、BM事件がここまで拡大した真の原因であり、こんな金融庁が適切な処分を下せるはずがありません。「魚は頭から腐る」と言う諺があるように、損保業界の不正は金融庁が腐っていることに真の原因があると言ってよいと思われます。こんな疑いを持たれないためにも金融庁は損保への天下りの実体を公表すべきです。