卓越大1号が東北大になったわけ

文部科学省は9月1日、世界最高レベルの研究力を目指す「国際卓越認定大学」(卓越大)の認定候補に東北大を選定したと発表しました。

卓越大の初回公募には全国の国立、私立の計10校が申請し、国内外の研究者ら10人でつくる有識者会議で4月以降計12回の会合を開いてヒアリングなどを行い、東大・京大・東北大の3校に絞り込まれたことは既に報道済みでした。その後この3校については現地調査も実施し、その結果8月30日に全会一致で東北大を最初の認定候補に決めたということです。以前3校に絞り込まれたとの報道があったときには、東大・京大が認定されて、東北大は「噛ませ犬」だと思った人が多かったと思います。それが東北大が認定されて東大・京大が落ちたことは、かなり衝撃的と言えます。

東北大が認定された理由について河北新報は、

1.東北大は「未来を変革する社会価値の創造」など公約3件を掲げ、全方位の国際化など六つの目標を達成するために19の戦略を提示した。指標や中間目標も明確にし、体系的な計画にまとめたことが評価された。

2.特に、東北大青葉山新キャンパス(仙台市青葉区)に整備中の次世代放射光施設「ナノテラス」を核とした戦略を重点化。産学官の結集や災害科学など世界的な研究に取り組む姿勢を示し、革新的な技術の創造、新たな投資の呼び込みなどをアピールした。

3.教授をトップとする研究体制を改め、准教授や助教らが独立した環境で研究に挑戦できる体系に移行する方針も称賛された。

4.総長と教学、事業財務、包括的国際化の各担当役員の4役体制を敷き、合議制の「法人総合戦略会議」を創設するといった機構改革の理念の高さも定評を得た。

と書いています。

この通りだとすれば、構想力と改革姿勢が評価されたと思われます。特に3については、東大・京大にない内容だと思われます。

ここで常識的には東大および/または京大となるはずの認定が東北大になった理由を推測すると次の4つが考えられます。

1つは東大および京大はこれまでの研究成果や社会的評価から言って自分たちが真っ先に認定されると信じて疑わず、それが準備の手抜きになった可能性があります。

2つ目は、東大および京大は卓越大学認定のための計画に求められる内容を取り違えたことです。東大および京大は、卓越大学認定のための計画をこれまでの大学運営の延長と捉えていた可能性があります。ところがこの計画では、企業の事業計画に類する具体性と改革姿勢が重視されていたように思われます。3大学とも計画の作成に当たってはコンサルタントを雇ったと思われますが、東大および京大が大学の方針に沿った計画を書くことをコンサルタントに求めたのに対し、東北大学はコンサルタント主導で計画を書いたことが伺えます。その結果東北大学の計画は企業の事業計画に類する内容と改革姿勢が明確となり、東大および京大の計画はアカデミックさが残る内容となって顕著な差が生じたように思われます。東大および京大の関係者が自分らの頭脳に自信を持つ余りコンサルタントを軽視し、東北大学の関係者はそこまで自分らの頭脳に自信を持っていない(うぬぼれていない)ことからコンサルタントに任せたことが良い結果になったと考えられます。従って今回の認定はコンサルタントの腕前が左右したとも言えます。

3つ目は、東北大では計画が全学で共有されており、東大および京大ではそうでなかったことです。これは3校に絞り込んだ後現地調査をしていることから出てきます。前述の通り計画はコンサルタントの腕前でどうにでもなりますが、実現可能性はこれが全学でどれだけ共有されているか、コンセンサスが得られているかにかかってきます。現地調査で大学職員にヒヤリングすれば「その件は本部マターなので知らない」という大学と「学内で議論したので良く知っている」という大学に分かれます。東大および京大は前者で東北大は後者であった可能性があります。

4つ目は、第1号の認定に当たって文部科学省と有識者会議は、認定の基準を示す必要があると考えており、東北大の計画が彼らのイメージに近かったということです。これまでの研究成果を見れば日本において国際的に通用する大学は東大と京大だけであることは明確であり、計画の出来は多少悪くとも東大と京大を認定して置けば、悪い結果にはなりません。しかしそれでは認定基準が分からず今回申請した他の大学は今後ずっと申請し続けることになりますし、新たに申請する大学も出てきます。一方東北大学を認定すれば、今後認定されるのは東北大学以上の質の大学と言うことがおぼろげながら見えてきます(東大、京大は当然として、東京科学大、阪大、名大までが候補)。

東北大が卓越大の第1号に選ばれたことにより、質的にそれ以下の大学はほぼ認定される可能性は無くなったと思われます。