蒲島知事「権腐16年」を示す不正見逃し事件

新型コロナウイルス禍の経済対策として熊本県が実施した旅行割引事業「くまもと再発見の旅」の不適切な助成金受給問題で、助成対象外の疑いがあったTKUヒューマン(ヒューマン)の日帰り旅行商品約7,300件のうち、約3千件について県幹部が担当課に見逃すよう指示する不正行為があったとして、9月8日関係者が公益通報者保護法に基づく外部通報を行ったと熊本日日新聞(熊日)が報じました(以下熊日記事に基づいて構成)。

ヒューマンの不適切受給については今年の2月9日熊日が、助成対象外の商品が「少なくとも4,341件(助成額2,456万円)に上る」と報じました(これについては3月30日事務局の阪急交通社が肩代わり返済)。県の担当課は当初さらに不適切受給の疑いがあるとしてヒューマンの別の商品2,973件(同2,052万円)についても追跡調査をする方針だったようです。報道された翌日に県庁内で担当課職員らが協議したところ、その場で課長が「上司から「『もうよかろ』『ミリミリ(ミリ単位で)おまえらは詰めるのか』『県の決めようだろ』って言われた」と発言し、同席した政策審議監は「厳密に1ミリの誤りもなく、そこまでするべきかっていうのは、だいぶ(上司に)言われた」と発言。これに対して職員の1人が「これまでの事業者への指導とは違う解釈だ。(不適切受給を)なかったことにしろという指示か」と尋ねると、政策審議監らが「うまくやれって」などと発言したということです。「公金で穴埋めすることになる」と抵抗した職員はその後、同事業の担当から外されたということです。

熊日の取材に対し当初課長は協議でのやりとりについて、「言った記憶はない。疑義があるものは適切に調査するよう指示をした」、政策審議監は「一言一句は覚えていない。もし言ったとしたなら、上層部が言ったことを伝えただけだ」と答えていましたが、証拠の音声データが出てきて発言は事実であることが確認されました。この後政策審議監は改めて上司の名前を挙げ「言われたことを現場に共有した。言われてもないことを伝えることはしない」と話し、本件は上層部からの指示であることを明らかにしています。(公益通報者が課長から調査しないよう指示されたが抵抗したため、最後通告として政策審議監を入れた協議(説得)の場が設定されたことから、公益通報者は結果を見越して音声録音に踏み切ったと想定されます)。

公務員がこんな指示をすれば破滅を招くことは容易に想像がつくことから、なかなか出来ない行為です。完全に公務員の規範を逸脱しており、本件指示者がヒューマン側から接待などの便宜を受けていれば贈収賄罪に問われることになります。場合によると本件のようなことが県庁内で普通に行われていたのかも知れません(相当汚職が蔓延している可能性がある)。

これに対して注目されるのは蒲島知事の対応です。この報道後蒲島知事は取材に対応しています。やり取りの一部を熊日記事から引用すると

─通報内容は確認されましたか。

「事実確認するよう関係部局に指示した。調査、確認後に適切に対応したい」

─幹部が見逃しを指示したとされる約3千件(助成額約2千万円)について調査するのですか。

「そうだ。適正だったかどうかについて調査する」

─公益通報では、上司が担当課長に見逃しを指示した、と訴えています。

「私は指示したことはない。『上司からの指示』は報道を通じて知った」

─上司とは誰ですか。

「知らない」

このやり取りを見ると蒲島知事は、指示はしていないが事実関係は把握していたと思われます。これを指示したら身の破滅を招くことは直ぐ分かりますから自らはしないはずです。指示したのは部長または副知事クラスではないでしょうか。少なくとも副知事には上がっていたと思われます。ただし副知事は蒲島知事には上げていないでしょう。上げたら止めろと言われる可能性が高いし、もし公になったら知事を巻き込んでしまうからです。しかし3月31日に熊日がヒューマンの親会社TKUから県に事実を公表する場合社名はふせるよう要請があった旨報道したことから、県は4月18日協議したメモを一部黒塗りで開示し、翌日蒲島知事は「TKU側から社名非公表の要請は一切なかった」と述べましたが、この時点までに蒲島知事も本件経緯を知ることになったと思われます。従って指示した上司も知っているはずです。

これが正しいとすれば本件不正は蒲島知事にも責任があることになります。「権腐10年」(1人が権力者の座に10年もいると組織が腐ってくると言う意味。細川護熙元熊本県知事がこの言葉を引用し3選に出馬しなかった。)と言う言葉がありますが、蒲島知事の場合もう少しで16年になるわけで、今回の事件は「権腐16年」の現れと言えます。

これについては予兆がありました。例えば蒲島知事は肥薩線鉄道復旧に邁進していますが、6月22日に開催された地元自治体との協議会の場で沿線住民の約6割、高校生に至っては約8割が鉄道復旧を望んでいるというアンケート結果を公表するなど担当部署は蒲島知事の意向を実現するべく民意偽装工作をしています。なぜ偽装かというと正確な負担を知らせずに(負担は無いか小さいと誤解させて)アンケートを採っているからです。将来負担が大きくのしかかることが分かっていれば、通勤通学など日常の利用者数は「極めて少ない」(田島副知事)肥薩線鉄道復旧を望むはずがありません。一方で田島副知事は「鉄道がなくなることは地域の存亡にかかわる。」と述べており、意味不明です(日常利用者は「極めて少ない」のに「地域の存亡にかかわる」はずがない)。担当部署が蒲島知事の意向実現のために必死で取り組んでいることが分かります。これはJR豊肥線熊本空港延伸計画で見られます。蒲島知事の実現の意向を汲んで担当部署は利用者数を膨らませるなどして採算計画を良く見せています。このように今の県庁では蒲島知事の意向を実現するためには何でもするような風潮が垣間見えます(蒲島知事の意向を実現するための部隊「蒲島軍団」が存在する?)。

蒲島知事は知事になる前は東大法学部政治学科教授であり専門は政治過程論、計量政治学となっていますから、意思決定に当たっては手続きと民意を重視します。これは素晴らしい姿勢なのですが、これまで蒲島知事のやり方を見ていると自分が望む民意に誘導している(民意を偽装している)ことが分かります。例えば川辺川ダム建設計画中止決定においては、球磨川流域でも無関心派7割(県全体では9割)、ダム反対派2割、ダム賛成派1割(以上推定)のところ、ダム反対派を民意に仕立て上げました。これに関する意思決定のポイントはダム賛成、反対どちらが民意かではなく、ダムが無くても流域住民の生命・財産が守れるか否かでした。これまでの球磨川氾濫の歴史と当時の異常気象の増加を考えれば、普通の人ならダムは不要という判断は出てきません。とりわけ秀才なら絶対にあり得ません。何故ならこの問題がテストで出題されたら、ダムは不要という答えは×になるからです。秀才はそう訓練されています。蒲島知事がダム中止の判断をしたと言うことは、蒲島知事は元東大教授ながら秀才ではないということになります。蒲島知事が優れている点は利害関係を調整することであり、別の言い方をすれば人心を丸め込むことのように思われます。その為には蒲島知事の意向を受けて手足となって人心を丸め込める部下が必要であり、蒲島知事下の県庁ではそのような部下が出世したのではないでしょうか。これが本件に表れているように思われます。

就任早々川辺川ダム建設計画中止と言う大きなミスを犯した蒲島知事は、任期最後で部下の不正行為を見逃すという大きなミスを犯したようです。本件では指示した上司(ラインの最上位者)の懲戒解雇処分は避けられず(贈収賄罪による逮捕もありうる)、場合によっては蒲島知事の辞職もあると思われます。公益通報者は胸を張って公務員人生を送って下さい。県庁職員はこの公益通報で救われており、公益通報者をみんなで守って欲しいと思います。

(今後いろんな軋轢や不利益が予想される中本件を報道した熊日の決断は称賛に値します。新聞があって良かったと思わせる記事です。今年の新聞協会賞を受賞してもおかしくないと思います。本件は熊本県民だけでなく全国の人に知って欲しい事件であり、読売新聞全国版への掲載を望みます。)