記者会見で分かった損保ジャパンの病巣は桜田会長
9月末までに記者会見を開くと発表していた損保ジャパンが9月8日急遽記者会見を開きました。9月末までとしていたのは、9月中旬から金融庁結果が行われれることから、検査で確定された事実に基づいて記者会見を行うためと解釈していましたので、意外でした。案の定記者会見が始まると出席した白川社長や桜田会長などが話す内容は報道済のことばかりであり、かつ責任逃れに終始していました。この記者会見で意味のある内容は白川社長が辞任すると言う1点のみと言ってよいと思われます。
白川社長は冒頭「昨年7月保険金不正請求の疑惑があったビッグモーター(BM)と取引を再開したのは私のミス」「本件がこんな大事になるとは考えておらず、取引再開の判断は役員協議会で決め、取締役会に諮らずホールディングにも報告しななかった」と述べ、損保ジャパン取締役であり、損保ホールディング代表取締役会長である桜田氏に責任が及ばないようにする意図が見えました。
一方桜田会長は、自身がBMの保険金不正請求事件を知ったのは昨年9月であり、それまでは一切知らなかったと述べました。また自身はBMの兼重社長には1度も会ったことはなく、「こんな会社と取引していたことは痛恨の極みだ」と述べ、自身は一切BMとかかわりがないことを強調しました。この発言には、BMは損保ジャパンが2014年に合併した日本興和損保の有力代理店であり(兼重宏一副社長も日本興亜損保に1年在籍していた)、本件は日本興亜損保グループが引き起こしたもので、損保ジャパンが引き起こしたものではないという含意があります。従って現在行われている社外調査委員会の調査書の中ではこの点が強調され、責任の明確化と称して日本興亜損保グループ出身の幹部が一掃されることが予想されます。
記者からは「桜田会長は辞任しないのか」という質問が何回か出ましたが、桜田会長は「辞任は一切考えていない」「調査委員会の調査結果によってはホールディングスの指名委員会が判断することはあるだろう」と述べました。しかしホールディングスは12名の取締役中9名が社外取締役であり、多くが桜田会長の知遇を得て就任していることから、ホールディングスの指名委員会が桜田会長を解任することは全く考えられません。桜田会長の発言はこれを見越したものであり、居座り宣言と言えます。
この記者会見は冒頭から空っぽ感が漂っており、質問者もある意味素人が多かったように思えます。例えば2番目にテレビ東京でWBSのサブを勤める田中瞳アナ(活舌が良くアナウンス力NO1)が質問しましたが、想定通りの質問であり想定通りの答えになっていました。9月7日のジャニーズ事務所の記者会見ではテレビ局の質問者がいなかったことが話題になったせいか、この記者会見ではテレビ局関係者からの質問が目立ちました。いずれもアナウンス力重視で、記者会見の空っぽ感を増長していました。そこで気付いたことですが、日本経済新聞を始めとして新聞社には損保業界に詳しい経済記者が多いにも関わらず、質問が少なかったように思われます。最初から何も出ないと分かっていたから質問しなかったのか、損保ジャパンとの今後の関係を考えて質問しなかったのか、どちらかだと思われます。多分後者ではないでしょうか。
この記者会見で明らかになったのは損保ジャパン経営陣のレベルの低さでした。白川社長はおよそ社長としての風格も識見もありませんでしたし、桜田会長は「俺は元経済同友会代表幹事の大物だ」という態度を露骨に表していました。同席した3人の役員もこの程度かという話の内容でした。特に女性の常務はBMの保険業法違反と思われる指摘に対して「貴重なご指摘ありがとうございました。今後の参考にさせていただきます」と答えるなど「こりゃダメだ」と思わせました。損保ジャパンの役員のレベルは町役場の幹部レベルだと思われます(こんな連中が日本トップレベルの高給を取っていると思うと腹立たしい限りです)。これは損保の仕事が代理店回りと保険金の支払いが中心であり、注文を取るために人間力を磨くとか専門知識を深めるとかの努力が必要とされないためでもありますが、もう1つは損保ジャパンの実質的経営責任者(CEO)は桜田会長であり、白川社長は業務執行責任者(COO)、他の役員は担当部長のような役割になっているためのように思われます。桜田会長が年齢的にも他の役人より10歳以上年長であり、かつ前経済同友会代表幹事であることから、損保ジャパングループでは創業者オーナーのような存在(例えばジャニーズのジャニー喜多川氏のような)になっているように思われます。そのため白川社長以下損保ジャパンの役員は、桜田先生に教えを乞う生徒のような存在に見えました。この不健全な状態(病巣)が今回損保ジャパンがBMの不正に加担した真の原因のように思われます。
この見方が正しいとすれば、損保ジャパンの再発防止策としては、桜田会長の剔抉が不可欠ということになります。たぶん金融庁から引導を渡されるでしょうが、本件において責務を果たしてこなかった損保ホールディングの社外取締役、とりわけ指名委員会メンバーの最後の大仕事のように思われます。