ジャニーズ事務所の危機対応力には驚いた

ジャニーズ事務所の創業者ジャニー喜多川氏が長い間に渡って所属タレントに性的虐待をしていた問題が関心を集めています。これは1960年代から続いており、1970年代には芸能界では公知の事実だったようです。それをテレビ、新聞、雑誌がこぞって取り上げず蓋をしてきましたが、被害者が名乗り出て告発したことから社会的関心を呼び、今日大問題になっています。

私はジャニーズのタレントのどこが良いのか全く分からず、テレビでジャニーズのタレントを見るたびに苦々しく思っていました。従って本件は悪いことだと分かっていますが興味はありません(当事者間で解決する問題)。しかしこの問題が大きくなってジャニーズ事務所が6月12日に「再発防止特別チーム」(実質的には第三者委員会)の設置を発表し、座長(委員長)に林真琴前検事総長(現弁護士)が就任していたことからがぜん興味を持ちました。と言うのはチャラいイメージのあるジャニーズ事務所の第三者委員会の委員長に前検事総長が就任するのは不釣り合いのように思えたからです。芸能界は林弁護士と一番無縁な業界であり、そもそもどうやって林弁護士にたどり着いたのかが不思議でなりませんでした。また林弁護士は前検事総長であることからジャニーズ事務所に忖度することは考えられず、ジャニーズ事務所は凄い決断をしたなと思いました(ちなみに林氏が検事総長になったのは安倍政権が違法な定年延長までして黒川東京高検検事長を検事総長にしようとしていた最中に黒川氏の賭けマージャンが発覚しこけたためです。林氏は黒川氏のライバルでしたが黒川氏を検事総長にするため名古屋高検検事長に飛ばされたという話です。)

チームの報告書は8月29日の記者会見で発表されましたが、やはりジャニーズ事務所に一切忖度の無いものとなっていました。性的虐待があった事実を全面的に認め、被害者への補償を求めると共に、その原因を同族経営に求め、同族経営からの脱却が必要と断じています。林弁護士を委員長にしたときから覚悟していたとは言え、ジャニーズ事務所のジュリー喜多川社長にとっては思いのほか厳しい内容だったと思われます。

その後9月7日ジャニーズ事務所は記者会見を開きましたが、午後2時に始まって午後6時過ぎに終わると言う4時間以上に及ぶ長丁場でした。たぶん会場は終日確保されていたのではないでしょうか。疑問や意見は全て聞くと言う姿勢が顕著でした。この場で発言できなった人はその後マスコミやインターネットで発言しますから、発言できなかった人を残さないことが大変重要でした。

一方ジュリー喜多川社長が取締役として残ったことやジャニーズ事務所の株式がジュリー喜多川氏100%のままであることから、報告書が求めた同族経営からの脱却については改善が見られませんが、被害者への補償には加害者の親族でありジャニーズ事務所のオーナーであるジュリー氏が当たることが適切であることや株式の再構成には検討や交渉に時間が必要であることからやむを得ないと考えられます。

今回のジャニーズ事務所の一連の動き(危機対応)については、ネット上いろんな評価がありますが、私は秀逸であったと思います。先ず第三者員会の委員長に林前検事総長を据えた点が凄いですし、記者会見をエンドレスに行った点も良かったと思います。何故ジャニーズ事務所ごときに(失礼!)こんな危機対応が出来たのか探っていくと、9月7日の記者会見に出席していた木目田裕弁護士の存在があるようです。木目田弁護士は日本有数の弁護士事務所西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士で、危機管理分野で評価されている弁護士ランキング1位にもなったことがある有名弁護士のようです(中継ではそんな風には見えませんでしたが)。東京地検特捜部検事の経験もあることから、林前検事総長の委員長就任は木目田弁護士がセットしたものと思われます。

いままで企業の危機管理対応はいくつか見てきましたが今回ほど見事だと思ったことはありません。これと対照を成すのが9月8日に行われた損保ジャパンの記者会見(危機対応の一部)です。